あなたが運命の番ですか?
 俺は10歳の血液検査の前から、自分が「アルファ」であることは何となく分かっていた。
 そう思った理由は、番同士のカップルからはアルファが生まれやすいというのも1つあるが、ほぼ勘だ。
 診断結果を見ても、「ああ、やっぱりな」という感想だった。

 小学生の頃は標準的な体型だった俺も、中学に入ると急激に身長が伸びて、今では194cm96kgの大男になっている。
 どんどん身体が大きくなり、どんどん周りの人を見下ろすようになって、俺はふと鏡で自分の姿を見た。
 鏡に映った自分は、子供の頃に恐れていた義父によく似ていた。
 大きな身体で、周りの人を委縮させる威圧感のあるアルファ男性――。

 あれは、中学の頃だった。
 伽耶母さんと一緒にデパートへ行った時、母さんが人とぶつかりそうになっているのを見て、俺は慌てて母さんの腕を引っ張ったのだ。
 すると、伽耶母さんは「痛っ!」と言って顔をしかめた。
 俺が反射的に「ごめん」と言って腕を離すと、伽耶母さんは慌てて「大丈夫、気にしないで」とぎこちなく笑った。
 しかし、その後も伽耶母さんは顔色が悪く、脂汗をダラダラとかいていたため、急遽病院へ行くこととなった。
 すると、母さんの肩が脱臼していることが分かったのだ。

 アルファ男性とオメガ女性では、身体能力も筋力も全く違う。
 ベータの男性同士で例えると、プロの格闘家と小学校高学年の児童くらいの差がある。

 俺はそんなに強い力で引っ張ったつもりはなかった。
 しかし、俺はオメガの母親を傷つけてしまった。

 伽耶母さんに謝ると、「ゆうちゃんは悪くないよ」と笑顔で慰めてくれた。
 しかし、亜紀母さんからは「ベータやオメガと接する時は、力加減に気を付けなさい」と注意された。

 俺は、あれ以来「アルファである自分」が恐ろしくなった。
 無意識のうちに誰かを傷つけてしまうのではないか。怖がらせてしまうのではないか。
 幼い頃、俺が恐れていた義父のように、いつか俺自身もなってしまうのではないか。
 俺は、誰も傷つけたくない。

 それ以来、俺はなるべく身体を小さくさせるために、猫背の姿勢でいるようになった。
 だらしない印象を与えるかもしれないが、威圧感を与えるより幾分かマシだ。
 そして、俺は次第にベータやオメガとも距離を取るようになり、伽耶母さんのことも避けるようになった。
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