あなたが運命の番ですか？

　俺の春川さんへの第一印象は、とても小さくて可愛らしい人だ。おそらく、伽耶母さんよりも小柄だと思う。
　春川さんは、段の入った黒のセミロングヘアで、パッチリとした丸い目と幼い顔立ちが印象的だった。
　顔立ちもそうだが、体型も全体的に丸みを帯びているように見える。
　
　そして、最も印象深かったのは、俺に対して「怯えている」様子はなかったことである。
　見合いの前、俺は「相手に怖がられたらどうしよう」とずっと不安だった。
　しかし、春川さんは俺が危惧していたようなそぶりは一切見せず、俺は安堵した。

　見合いの間、春川さんはほとんど話さなかった。
　春川さん自身の話も、母親の春川夫人が代わりに喋ってしまう。
　その様子を見て、「春川夫人は過保護なんだろうな」と思った。
　しかし、それと同時に「無理もないか」とも思う。

　こんなに小さくて、ベータの女性にも敵わないほど非力で――。
　しかも、ヒートになればアルファが襲い掛かる危険性もある。
　両親からすれば、春川さんが１人で外を出歩くだけでも心配で仕方ないだろう。

「優一郎、今日ここでお見合いの返事をしておく？」
　亜紀母さんにそう問われた時、「今返事するのか」と唖然とした。
　後で冷静になると、数日考える期間を設ければ良かったと思っている。
　正直初対面だし、春川さんに対して恋愛感情があったわけではない。
　しかし、春川さんを見ていると「俺が番にならなければ」という謎の使命感が湧いた。
　そんな使命感が湧いたのは、春川さんがあまりにもか弱くて危うい存在だからだろう。

　もし、俺がこの見合いを断れば、春川さんは別のアルファと番になるだろう。
　そいつが傍若無人なアルファだったら、彼女の人生は一体どうなる？
　身も心も支配されてボロボロになった春川さんを想像して、悪寒が走った。
　そんな奴に、春川さんを渡したくない。
　俺が彼女を守らなくては――。

「寿々さんが僕で良いとおっしゃるなら、僕は寿々さんと番になりたいですし、結婚もしたいです」