あなたが運命の番ですか?
春川寿々
始業式とホームルームが終わると、私は担任の先生から「保健室へ行くように」と言われた。
「初めまして、養護教諭の川田です。よろしくね」
にこやかに挨拶してくれたのは、30代前半くらいのベータ女性だった。
教師など、オメガの子供と関わる職業は原則ベータしかいない。昔、アルファの教師がヒート状態のオメガの生徒を襲ってしまう事件が起こったため、オメガのいる学校ではアルファの教師を採用しないという法律ができた。
そのため、宝月学園も養護教諭の川田先生を含めた教師全員がベータだ。
「春川さんは、今までヒートになったことある?」
「いえ、まだないです」
「そう。じゃあ、抑制剤は持ってるかな?」
「はい、一応持ってます」
私は通学カバンから小瓶に入った抑制剤を取り出し、川田先生に見せた。
この抑制剤は、ヒートの症状を軽減させる効果がある。脱力感や性欲増進を軽減させるだけでなく、オメガが放つ発情フェロモンの効果も薄くなり、近くにいるアルファが理性を失ってしまうことを防いでくれる。
外出先で突然ヒートになっても良いように、オメガは常に抑制剤を携帯しているのが常識だ。
「高校生になってから初めてヒートを経験する人が多いから、春川さんもそろそろだと思うの。一応保健室にも常備してあるけど、常に抑制剤は携帯しておいてね。あと、これも」
川田先生は一枚のメモ用紙を私に手渡す。
「これ、私の業務用スマホの電話番号。ヒートで動けなくなった時とか、何か困った時に電話してね、すぐに駆け付けるから。一応ベータとアルファの教室は校舎が別々だけど、抑制剤が効くのも時間が掛かるし、休み時間や放課後になると色んな所にアルファの子たちがいると思うから……。ヒートの時は歩けたとしても、1人で出歩いちゃダメだからね?先生かベータの子たちに付き添ってもらって、保健室に来てね」
川田先生は穏やかな口調で話してくれる。
どうやら先生は、大学時代にバース性について勉強していたらしい。
「はい、分かりました」
私は後で電話帳に番号を登録しておこうと、渡されたメモ用紙をファイルに挟んでカバンに仕舞う。
「春川さんは部活、何に入るか決めてる?」
「えっ、部活……」
私は「部活」という単語を聞いて、お母さんのことを思い出した。
私が通っていた中学校では、生徒は必ず何かしらの部活に入部することが校則で義務付けられていた。
しかし、お母さんは部活のせいで下校時間が遅くなることを懸念して、学校に抗議したのだ。
「オメガの娘に何かあったら学校側は責任を取れるのか?」と言われた先生たちは困り果て、特別に私だけ部活に入らなくても良いことになった。
小さい頃から、お母さんは私に対して過保護なところがあった。
しかし、私がオメガだと判明してから、それがより顕著になったような気がする。
お母さんはいつも、私より先回りして、私の行動を決めてしまう。
それがとても息苦しい。
「……まだ、特に」
私は思わず濁した返事をしてしまう。
「それなら、私が顧問をやってる『園芸部』に入らない?うちの園芸部は代々オメガの生徒だけが入部するの。特にそういった決まりがあるわけじゃないけど、暗黙の了解ってやつかな?」
「オメガの生徒……」
私はその言葉に胸が高鳴った。
他のオメガたちと同じ部活、しかもオメガだけの部活――。
「オメガって数が少ないでしょ?だから、オメガ同士の交流や情報交換ができないって悩んでる子たちが多くてね。うちの園芸部では、部活を通してオメガ同士の交流を図ろうって方針なの。毎週水曜日に活動してるから、興味があったら見学してみてね」
「初めまして、養護教諭の川田です。よろしくね」
にこやかに挨拶してくれたのは、30代前半くらいのベータ女性だった。
教師など、オメガの子供と関わる職業は原則ベータしかいない。昔、アルファの教師がヒート状態のオメガの生徒を襲ってしまう事件が起こったため、オメガのいる学校ではアルファの教師を採用しないという法律ができた。
そのため、宝月学園も養護教諭の川田先生を含めた教師全員がベータだ。
「春川さんは、今までヒートになったことある?」
「いえ、まだないです」
「そう。じゃあ、抑制剤は持ってるかな?」
「はい、一応持ってます」
私は通学カバンから小瓶に入った抑制剤を取り出し、川田先生に見せた。
この抑制剤は、ヒートの症状を軽減させる効果がある。脱力感や性欲増進を軽減させるだけでなく、オメガが放つ発情フェロモンの効果も薄くなり、近くにいるアルファが理性を失ってしまうことを防いでくれる。
外出先で突然ヒートになっても良いように、オメガは常に抑制剤を携帯しているのが常識だ。
「高校生になってから初めてヒートを経験する人が多いから、春川さんもそろそろだと思うの。一応保健室にも常備してあるけど、常に抑制剤は携帯しておいてね。あと、これも」
川田先生は一枚のメモ用紙を私に手渡す。
「これ、私の業務用スマホの電話番号。ヒートで動けなくなった時とか、何か困った時に電話してね、すぐに駆け付けるから。一応ベータとアルファの教室は校舎が別々だけど、抑制剤が効くのも時間が掛かるし、休み時間や放課後になると色んな所にアルファの子たちがいると思うから……。ヒートの時は歩けたとしても、1人で出歩いちゃダメだからね?先生かベータの子たちに付き添ってもらって、保健室に来てね」
川田先生は穏やかな口調で話してくれる。
どうやら先生は、大学時代にバース性について勉強していたらしい。
「はい、分かりました」
私は後で電話帳に番号を登録しておこうと、渡されたメモ用紙をファイルに挟んでカバンに仕舞う。
「春川さんは部活、何に入るか決めてる?」
「えっ、部活……」
私は「部活」という単語を聞いて、お母さんのことを思い出した。
私が通っていた中学校では、生徒は必ず何かしらの部活に入部することが校則で義務付けられていた。
しかし、お母さんは部活のせいで下校時間が遅くなることを懸念して、学校に抗議したのだ。
「オメガの娘に何かあったら学校側は責任を取れるのか?」と言われた先生たちは困り果て、特別に私だけ部活に入らなくても良いことになった。
小さい頃から、お母さんは私に対して過保護なところがあった。
しかし、私がオメガだと判明してから、それがより顕著になったような気がする。
お母さんはいつも、私より先回りして、私の行動を決めてしまう。
それがとても息苦しい。
「……まだ、特に」
私は思わず濁した返事をしてしまう。
「それなら、私が顧問をやってる『園芸部』に入らない?うちの園芸部は代々オメガの生徒だけが入部するの。特にそういった決まりがあるわけじゃないけど、暗黙の了解ってやつかな?」
「オメガの生徒……」
私はその言葉に胸が高鳴った。
他のオメガたちと同じ部活、しかもオメガだけの部活――。
「オメガって数が少ないでしょ?だから、オメガ同士の交流や情報交換ができないって悩んでる子たちが多くてね。うちの園芸部では、部活を通してオメガ同士の交流を図ろうって方針なの。毎週水曜日に活動してるから、興味があったら見学してみてね」