あなたが運命の番ですか?
 私は自分の席に戻る。
 クラスメイトたちは、「購買行こう」と言って複数人で外へ出て行ったり、机や椅子を移動させて「島」を作ったりしている。
 その一方で、私はカバンからお弁当を取り出し、1人でお昼ご飯を食べようとする。

 ――ねぇ、何で春川さんをグループに入れてあげたの?正直あの子って、いっつもモジモジしててイラつかない?
 ――え?知らないの?オメガの子と仲良くしてたら、内申点上がるらしいよ。

 ふと私の脳裏に、中学時代の苦い思い出が浮かんだ。
 たまたまトイレで聞いた、私が友達だと()()()()()子たちの会話。
 
 小さい頃から、私は人とコミュニケーションを取るのが苦手だった。だから、友達もなかなか出来ない。
 中学に上がると、入学早々クラスの女子たちに声を掛けられてグループに入れてもらえた。しかし、その子たちも下心で仲良くしていただけで、本当の友達ではなかった。
 みんな私のことを「オメガ」としか見てくれなかった。
 結局、私は中学時代の経験がトラウマとなり、高校ではベータの子たちとも距離を取るようになる。
 私が距離を取っているのもそうだが、クラスメイトたちも私に遠慮しているのもあり、私はあまりクラスの子たちと打ち解けられていない。
 このままではいけないと分かっている。だけど――。

「ねぇ、春川さん」
「へっ!?」

 私は突然声を掛けられ、驚いて飛び上がる。
 顔を上げると、クラスメイトの鏑木朱音さんがいた。
「あっ、ごめんごめん、驚かせるつもりはなかったの……」
「あ、いや、ううん。大丈夫。どうかしたの?」
 鏑木さんとこうして話すのは初めてなので、「何の用だろう?」と思って私はそう尋ねる。
 すると、鏑木さんは何か言葉を探すように視線を泳がせながら、口を小さくパクパクとさせる。

「春川さんって、いつも1人でお昼食べてるよね?」
「えっ……」
 私は鏑木さんにそう言われて、ドキッとした。
「あっ、ごめん。……いや、違うな。うーん?」
 鏑木さんは腕組みをしながら首を傾げて考え込む。
 そして、考えがまとまったのか腕組みを解いて、私の目をジッと見つめてきた。

「良かったら、私たちと一緒に食べない?」
「えっ!?」
 私はまさかの申し出に仰天する。
 鏑木さんは一匹狼というわけではないけれど、物静かでどちらかというと気難しそうな人だ。
 そんな彼女から、お昼に誘われるなんて予想外だった。

「春川さんが嫌だったら、全然断ってもらってもいいんだけどね。それに、実は私の他に、アルファの女子も一緒なの。それでも良かったら、一緒に裏庭で食べない?」
 鏑木さんは不安げな表情を浮かべる。
 アルファの女子。それって、たぶん星宮さんのことだよね?

 ――()()()()の子に近づいちゃダメよ?何されるか分からないんだから。

 お母さんの言葉が脳裏に浮かぶ。
 でも、星宮さんって芸能人だし、流石に変なことはしてこないと思う。
 それに、断ってしまったら、せっかく誘ってくれた鏑木さんにも悪いし――。

「うん、一緒に食べよう」
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