あなたが運命の番ですか?
 鏑木さんと一緒に裏庭へ行くと、ベンチに座った星宮さんが待っていた。
「初めまして、1組の星宮真琴です。よろしくね」
 星宮さんはにこやかに挨拶してくれた。
 まこちゃんが私の目の前にいる――。
 いつも雑誌で見る星宮さんを間近で見て、私は緊張して固まる。

 生で見る星宮さん、すごく綺麗だなぁ……。
「ティーンズでいつも見てます」って言ったら、追っかけみたいで引かれちゃうかな?
 
「ろ、6組の春川寿々です。よろしくお願いします」
「あははっ、同学年なんだから、タメ口でいいよー」
 星宮さんはフランクな口調で話してくれた。

 私たちは鏑木さんを間に挟んで、ベンチに並んでお弁当を食べる。
 星宮さんと鏑木さんは小学校時代からの幼馴染らしく、2人は当時の話を聞かせてくれた。
 星宮さんはイメージ通り気さくで明るく、鏑木さんもサバサバしているが話してみると結構フレンドリーな人だった。

 食事の最中、星宮さんは通知か何かが着たのか、「何だろ?」と言いながらスマホを取り出す。
 その時、チラッと彼女のスマホの待ち受けが見えた。それは、カヴァリエのシオンくんだった。
「あっ、シオンくん……」
 私は無意識のうちに、声に出していた。
 すると、星宮さんはパッと明るい表情を私に向ける。

「春川さん、カヴァリエ知ってるの?」
 星宮さんは若干前のめりな様子で尋ねてくる。
「う、うん。それ、去年の年越しライブの公式写真だよね?」
「うん、そう。この時のライブ、朱音ちゃんと観に行ったんだよね」
「いいなぁ、ライブ」
 私もカヴァリエのライブに行きたいが、お母さんが「人込みは危ない」と言って許してくれない。

「春川さんもカヴァリエ好きなの?」と、鏑木さんが尋ねてくる。
 私は「うん」と頷いた。
「ほんとに?誰推しなの?」
 すると、星宮さんが食い気味に尋ねてくる。
「えっと、ハルトくん」
「ハルトくんかぁ。いいよねぇ、優しいお兄さんタイプのリーダー」
 星宮さんの言う通り、ハルトくんはグループ内最年長であり、メンバーを支えるリーダーだ。そして、私はそんな穏やかで優しい彼に憧れている。
 そのことを星宮さんに共感してもらえて、何だか嬉しくなる。

 その後、私たちはカヴァリエの話で盛り上がった。
 それぞれの好きなメンバー、曲、出演したテレビ番組など、時間も忘れて語り合った。
 中学時代は周りにカヴァリエが好きな人はいなかったので、こうやって楽しく話せる相手が出来て、嬉しさと新鮮さを感じる。

 もうすぐ昼休みが終わる時間、私と鏑木さんは裏庭で星宮さんと別れて教室へ戻る。
「良かった」
 教室への道中、鏑木さんはホッとしたような表情で呟く。
「私、ちょっと不安だったんだ。春川さんを誘ってみたは良いけど、ちゃんと仲良くなれるかな?って……。でも、春川さんとカヴァリエの話で盛り上がれて、良かったなって思ったの」
 鏑木さんはそう言って微笑む。

 私はこの昼休みの間に、2人の意外な一面を見た気がする。
 2人がアイドルのファンだというのも意外だが、2人とも話しやすい人物であるというのが1番意外だった。
 気難しそうな鏑木さんは意外にも気さくな人で、芸能人ということもあり私たちとは住む世界が違いそうな星宮さんも、意外に庶民的で親近感のある人だ。
 
「うん、とっても楽しかった。誘ってくれてありがとうね」
 私がお礼を言うと、鏑木さんは照れ臭そうに笑った。
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