あなたが運命の番ですか?
「では、あなたのお題を教えてください」
私と前園先輩がゴールした後、1年生の出場者はゴール順に並べられた。
そして、全校生徒が見守る中、ベータ男子の放送部員がマイク片手に、インタビュー形式でお題と借りてきた物を順にチェックしていく。
「私は『タオル』です」
1着目にゴールした女子生徒はマイクに向かってそう言いながら、汗拭きタオルを広げる。
すると、放送部員の隣にいる審判役の体育教師が両手で大きく丸を作った。
「丸が出ました!3組1位です!おめでとうございます!」
放送部員が拍手しながらそう告げると、一着目の女子生徒の所属クラスであろうテントから歓声が上がる。
その後、「水筒」「坊主の人」「帽子」「眼鏡を掛けた人」というお題が続き、体育教師は全員に合格の丸を出す。そのたびに、あらゆるところから歓声が上がった。
あれ?何か、他の人たちのお題は、私と違ってシンプルで簡単じゃない?
私は徐々に違和感を覚え始める。
そして、私はあることに気づいた。
もしかして、私、全校生徒の前で前園先輩が「好きな人」だって堂々と発表することになるんじゃ……。
とにかくゴールすることに必死過ぎて、お題の発表についてまで気が回っていなかった。
事の重大さに気づいた頃、放送部員が私の元へやって来た。
「6組の春川さん。あなたのお題を教えてください」
放送部員は笑顔で、私にマイクを向ける。
その瞬間、私はブワッと汗が噴き出て、心臓がバクバクと鳴り始めた。
どうしよう。本当に全校生徒に向けて、「『好きな人』です」って言わなきゃいけないの?
いや、全校生徒だけではない。保護者や先生たちもいるのに?
私は思わず前園先輩のほうを向く。
前園先輩は、不思議そうな顔で私を見つめる。
私が黙りこくっていることに、生徒たちが疑問を抱き始めたのか、観覧席がザワザワとし始めた。
「えーっと、どうかしましたか?」
放送部員も困ったような顔をする。
「……春川さん、俺が代わりに――」
前園先輩も私を心配して助け船を出そうと、小声でそう囁いてくれた。
しかし、私はビリになってしまった申し訳なさもあって、これ以上先輩に迷惑を掛けられないと首を横に振った。
「わ、私のお題は――」
私は意を決して、マイクに口を近づける。
「すっ、『好きな人』……です」
私は放送部員に向かってお題の紙を広げながら、か細い声で言った。
しかし、そんな私のか細い声は、マイクに乗って校庭中に響き渡る。
しばらくの静寂が流れた後、「えぇー!!?」という割れんばかりの驚嘆のような、悲鳴のような声が校庭中から上がった。
その声は各クラスのテントや保護者席のみならず、教師用のテントからも上がり、目の前の放送部員も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
周囲の驚嘆の声を聞いているうちに、私は恥ずかしさで全身がどんどん熱くなっていく。
私は恥ずかしさで正面を向いていられず、前園先輩のほうを向いた。すると、先輩は顔を真っ赤にして、目を丸くさせていた。
「へっ!?す、好きな人……、好きな人ですか……」
放送部員はしどろもどろになりながら、体育教師のほうを見る。
体育教師は苦い顔をしながら何かを放送部員に耳打ちすると、小走りで教師用のテントへ向かった。
「……申し訳ありません。どうやら、1年生のお題の中に、誤って3年生のお題が混ざっていたようで、春川さんはそれを引いてしまったみたいです……」
放送部員の言葉に、私は5秒ほどフリーズする。そして、その言葉をようやく理解した私は、思わず「えぇっ!?」と悲鳴に近い声を上げてしまった。
周りにいる出場者や借り物としてゴールした人たちも戸惑っている様子で、「マジか」と言いながら互いに顔を見合わせる。
3年生のお題……、どうりで私だけお題の系統が違ったわけだ。
「流石に1年生と3年生ではお題の難易度が違い過ぎて不平等ということで……。今、先生たちが結果をどうするか話し合っているので、もうしばらくお待ちください」
放送部員は、出場者と観覧席に向かってそう告げる。
「ところで、春川さんは『好きな人』というお題で彼を連れてきたわけですが、お二人はお付き合いされているのですか?それとも、今のが告白でしょうか?」
放送部員は場繋ぎのつもりなのか、そんなことを質問してきた。
「えっ、えっとぉ……」
私は再びマイクを向けられ、心臓がバクバクする。
どうしよう。何て答えれば良いんだろう?
そもそも、私たちって付き合ってるの?
いや、付き合ってたとしても、マイクに向かって堂々と「付き合ってます」と言うのは恥ずかしすぎる。
「どうなんですか?」
私がまごついていると、放送部員は前園先輩のほうにマイクを向けた。
前園先輩は顔を真っ赤にしながら、襟足を掻く。
「……こ、婚約者です」
前園先輩は絞り出すような声で、そう答えた。
前園先輩の返答に、私は驚きと恥ずかしさで心臓が飛び出そうになる。
先輩、正直すぎる……。
前園先輩の返答の直後、再び各所が悲鳴やら歓声やらで騒がしくなり始める。
「婚約者!?なるほど、つまりお二人は『運命の番』というわけですね」
放送部員は興奮気味に話す。
運命の番……。
そんなふうに言われると、何だか気恥ずかしい。
いや、そもそもこの状況自体が恥ずかしすぎて死にそうだ。
「おめでとうー!」
「お幸せにー!」
校庭中がザワザワと騒がしく、私たちを冷やかすような声も聞こえてくる。
その中でも、2年生のアルファクラスが特に騒がしかった。
「ふざけんじゃねぇぞ!前園ぉ!!!」
「裏切り者ぉ!!!」
冷やかしと言うよりも、罵詈雑言に近い言葉が飛び交っていた。
そうこうしていると、先生たちの話し合いが終わったらしく、再び体育教師が放送部員に耳打ちする。
「協議の結果、3年生のお題でゴールした春川さんは2つ順位が繰り上げとなり、見事4位です。おめでとうございます!」
「あっ、えっ……、やったぁ」
私は思わず小さくガッツポーズをした。
私と前園先輩がゴールした後、1年生の出場者はゴール順に並べられた。
そして、全校生徒が見守る中、ベータ男子の放送部員がマイク片手に、インタビュー形式でお題と借りてきた物を順にチェックしていく。
「私は『タオル』です」
1着目にゴールした女子生徒はマイクに向かってそう言いながら、汗拭きタオルを広げる。
すると、放送部員の隣にいる審判役の体育教師が両手で大きく丸を作った。
「丸が出ました!3組1位です!おめでとうございます!」
放送部員が拍手しながらそう告げると、一着目の女子生徒の所属クラスであろうテントから歓声が上がる。
その後、「水筒」「坊主の人」「帽子」「眼鏡を掛けた人」というお題が続き、体育教師は全員に合格の丸を出す。そのたびに、あらゆるところから歓声が上がった。
あれ?何か、他の人たちのお題は、私と違ってシンプルで簡単じゃない?
私は徐々に違和感を覚え始める。
そして、私はあることに気づいた。
もしかして、私、全校生徒の前で前園先輩が「好きな人」だって堂々と発表することになるんじゃ……。
とにかくゴールすることに必死過ぎて、お題の発表についてまで気が回っていなかった。
事の重大さに気づいた頃、放送部員が私の元へやって来た。
「6組の春川さん。あなたのお題を教えてください」
放送部員は笑顔で、私にマイクを向ける。
その瞬間、私はブワッと汗が噴き出て、心臓がバクバクと鳴り始めた。
どうしよう。本当に全校生徒に向けて、「『好きな人』です」って言わなきゃいけないの?
いや、全校生徒だけではない。保護者や先生たちもいるのに?
私は思わず前園先輩のほうを向く。
前園先輩は、不思議そうな顔で私を見つめる。
私が黙りこくっていることに、生徒たちが疑問を抱き始めたのか、観覧席がザワザワとし始めた。
「えーっと、どうかしましたか?」
放送部員も困ったような顔をする。
「……春川さん、俺が代わりに――」
前園先輩も私を心配して助け船を出そうと、小声でそう囁いてくれた。
しかし、私はビリになってしまった申し訳なさもあって、これ以上先輩に迷惑を掛けられないと首を横に振った。
「わ、私のお題は――」
私は意を決して、マイクに口を近づける。
「すっ、『好きな人』……です」
私は放送部員に向かってお題の紙を広げながら、か細い声で言った。
しかし、そんな私のか細い声は、マイクに乗って校庭中に響き渡る。
しばらくの静寂が流れた後、「えぇー!!?」という割れんばかりの驚嘆のような、悲鳴のような声が校庭中から上がった。
その声は各クラスのテントや保護者席のみならず、教師用のテントからも上がり、目の前の放送部員も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
周囲の驚嘆の声を聞いているうちに、私は恥ずかしさで全身がどんどん熱くなっていく。
私は恥ずかしさで正面を向いていられず、前園先輩のほうを向いた。すると、先輩は顔を真っ赤にして、目を丸くさせていた。
「へっ!?す、好きな人……、好きな人ですか……」
放送部員はしどろもどろになりながら、体育教師のほうを見る。
体育教師は苦い顔をしながら何かを放送部員に耳打ちすると、小走りで教師用のテントへ向かった。
「……申し訳ありません。どうやら、1年生のお題の中に、誤って3年生のお題が混ざっていたようで、春川さんはそれを引いてしまったみたいです……」
放送部員の言葉に、私は5秒ほどフリーズする。そして、その言葉をようやく理解した私は、思わず「えぇっ!?」と悲鳴に近い声を上げてしまった。
周りにいる出場者や借り物としてゴールした人たちも戸惑っている様子で、「マジか」と言いながら互いに顔を見合わせる。
3年生のお題……、どうりで私だけお題の系統が違ったわけだ。
「流石に1年生と3年生ではお題の難易度が違い過ぎて不平等ということで……。今、先生たちが結果をどうするか話し合っているので、もうしばらくお待ちください」
放送部員は、出場者と観覧席に向かってそう告げる。
「ところで、春川さんは『好きな人』というお題で彼を連れてきたわけですが、お二人はお付き合いされているのですか?それとも、今のが告白でしょうか?」
放送部員は場繋ぎのつもりなのか、そんなことを質問してきた。
「えっ、えっとぉ……」
私は再びマイクを向けられ、心臓がバクバクする。
どうしよう。何て答えれば良いんだろう?
そもそも、私たちって付き合ってるの?
いや、付き合ってたとしても、マイクに向かって堂々と「付き合ってます」と言うのは恥ずかしすぎる。
「どうなんですか?」
私がまごついていると、放送部員は前園先輩のほうにマイクを向けた。
前園先輩は顔を真っ赤にしながら、襟足を掻く。
「……こ、婚約者です」
前園先輩は絞り出すような声で、そう答えた。
前園先輩の返答に、私は驚きと恥ずかしさで心臓が飛び出そうになる。
先輩、正直すぎる……。
前園先輩の返答の直後、再び各所が悲鳴やら歓声やらで騒がしくなり始める。
「婚約者!?なるほど、つまりお二人は『運命の番』というわけですね」
放送部員は興奮気味に話す。
運命の番……。
そんなふうに言われると、何だか気恥ずかしい。
いや、そもそもこの状況自体が恥ずかしすぎて死にそうだ。
「おめでとうー!」
「お幸せにー!」
校庭中がザワザワと騒がしく、私たちを冷やかすような声も聞こえてくる。
その中でも、2年生のアルファクラスが特に騒がしかった。
「ふざけんじゃねぇぞ!前園ぉ!!!」
「裏切り者ぉ!!!」
冷やかしと言うよりも、罵詈雑言に近い言葉が飛び交っていた。
そうこうしていると、先生たちの話し合いが終わったらしく、再び体育教師が放送部員に耳打ちする。
「協議の結果、3年生のお題でゴールした春川さんは2つ順位が繰り上げとなり、見事4位です。おめでとうございます!」
「あっ、えっ……、やったぁ」
私は思わず小さくガッツポーズをした。