あなたが運命の番ですか?

体育祭(借り物競争)②

 1年生の借り物競争の結果発表が終わり、春川さんの一件で辺りはザワザワと騒がしくなっている。
 そんな中、アタシのクラスの男子たちはと言うと、「撃沈」「落胆」といったところだろうか。
「さっきのって前園優一郎だよな?やっぱり大企業の息子くらいの金持ちじゃないと、番なんて作れないのか……」
「最初から俺たちにチャンスなんて無かったんだよ……」
「ダメだ。今日はもうやる気出ねぇ……」
 まるで人気アイドルの熱愛が発覚して、ショックを受けているファンのような有様だ。
 完全にクラスの士気が下がっており、この後の競技に影響が出ないか心配になる。

 でも、アタシも正直びっくりした。
 春川さんと前園先輩が婚約しているなんて、全く知らなかった。
 オメガは10代のうちに番となるアルファを見つけて婚約する人が多いと聞いていたが、本当にそんな人が身近にいたという事実にも驚く。
 春川さんも、前園先輩も聞かれてもいないことをベラベラと喋るようなタイプではないので、別に隠していたわけではないのだろう。
 そう言えば、春川さんはカヴァリエのハルトくんが好きと言っていた。
 優しいお兄さんタイプのアルファ――。前園先輩の人物像とも一致する。

「『運命の番』かぁ……」
 運命の番。――それは、本能的に強く惹かれ合うアルファとオメガを指す言葉。1度出会ってしまうと、もう2度と離れることのできない存在。
 しかし、運命の番と出会える人間はごく稀で、ほとんど「おとぎ話」のような扱いをされている。
 あの放送部員は2人がアルファとオメガのカップルだったから「運命の番」と表現したのだろうが、実際にあの2人が運命の番かどうかは本人たちにしか分からない。
 実際、どうなのだろう?
 あの2人は、それほどまで強く惹かれ合っているのだろうか。
 もし、そうなら、一体どんな感じなのだろう?

 アタシは、橘先輩のことを思い浮かべる。
 先週、アタシは2回、橘先輩の家へ行った。
 どうしても橘先輩に会いたかった。彼のことが忘れられなかった。
 こんなにも橘先輩に強く惹かれてしまうのは、彼がアタシの「運命の番」だから?それとも、ただの性欲?

 アタシは、先ほどの春川さんと前園先輩の姿を反芻する。
 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにモジモジとして、2人とも互いに目を合わせられなくなっていた。
 そんな初々しい2人を見ていると、何だか羨ましくなる。
 いいな。アタシもああいう少女漫画みたいな恋をしてみたいな……。
 しかし、そう思うと同時に、橘先輩と爛れた関係を持っている自分という現実がグサッと胸に突き刺さる。
 理想と現実のギャップで眩暈(めまい)がする。
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