あなたが運命の番ですか?
 アタシがぼんやりと考え事をしていると、2年生の借り物競争が始まろうとしていた。
 スタートラインに並ぶ2年生の中に橘先輩の姿を見つけて、アタシはドキッとする。
 橘先輩、借り物競争に出るのか。アタシはそんなことも知らなかった。
 アタシは、橘先輩の身体しか知らない――。

 2年生の出場者が一斉にスタートし、各々がお題を確認する。
 やはりお題の難易度が上がっているらしく、1年生の時とは違って一瞬戸惑う人が多い。
「すみません!左利きの人いますか!?」
「夏生まれの人ー!」
「ナ〇キの靴、履いてる人いる!?」
「誰かサングラスを貸してください!」
「教頭先生、どこですかー!?」
 出場者たちは、散らばりながらお題の物を探す。
 なるほど。確かに1年生の時より難易度が上がっている。

 そんな中、橘先輩が私のクラスのテントに向かって、一直線に走ってきた。
「ん?何だ?」
 クラスメイトたちが戸惑う中、橘先輩は我関せずといった様子でズイズイと人をかき分けてアタシの目の前にやって来た。
「ちょっと、来て」
 橘先輩はアタシの手を掴むと、強引にテントから引っ張り出す。
「えぇっ!?」
 
 アタシは訳も分からず、そのまま橘先輩と一緒にゴールした。
「惜っしい。2位かぁ」
 橘先輩はそう言って肩を落とす。
 ゴールした後、アタシはようやく自分が「借り物」として連れてこられたのだと理解した。
 アタシたちがゴールした後、残りの4人も続々とゴールして、そのまま審査へと移る。

「僕のお題は『サングラス』です」
 1着目の人がお題と借りてきたサングラスを掲げて、それに対して体育教師が丸を出す。

 そう言えば、橘先輩のお題は一体何だったんだろう?
 何の迷いもなくアタシの元へやって来たということは、アタシを選べば、まず間違いないという自信があるはずだ。
 アタシの脳裏に一瞬だけ、春川さんの「好きな人」というお題が(よぎ)った。
 いやいや、あれはさっき出たばかりのお題だし、本来は3年生用のお題だし……。
 それに、もしそんなお題だったとしても、あまりにも自惚れ過ぎだ。
 しかし、そう思いつつも、心のどこかで期待してしまう。
「好きな人」ではなくても、ああいった系統のお題という可能性も考えられる。
 何だろう?……「美人」とか?

「お次、6組の橘くん。あなたのお題は何ですか?」
 放送部員は橘先輩にマイクを向ける。
「僕のお題は――」
 アタシは、ドキドキと心臓が鼓動する。

「『アルファ女子』です」

 橘先輩が広げた紙には、デカデカと太字で「アルファ女子」と書かれていた。
 アタシはそれを見た瞬間、足の力が抜けてよろけそうになる。
 
 し、シンプル……。
 だけど、保護者を除けば該当者はアタシを含めて2人しかいないので、確かに難易度は高い。

「『アルファ女子』!一緒にゴールしたのは1年1組の星宮さんですね。これはもちろん――、丸が出ました!橘くんは見事2位です!おめでとうございます!」
 拍手と歓声が響き渡る中、アタシは勝手に期待した自分を恥じる。
 すると、突然橘先輩がこちらを向き、アタシと目が合った。
 橘先輩はアタシの目をジーッと見つめると、ニッと不敵な笑みを浮かべた。
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