あなたが運命の番ですか?

体育祭(クラス対抗リレー)

 体育祭もいよいよ終盤となり、最後の競技であるクラス対抗リレーが始まった。
 ベータ女子、ベータ男子が順に終わり、最後にアルファクラスの対決が始まろうとしている。
 
「真琴、確かトップバッターって言ってたんだよね」
 鏑木さんは私の隣でポツリと呟く。
 クラス対抗リレーには、前園先輩だけでなく、星宮さんも出場する。
 
 スタートラインには、1年生の星宮さん、2年生の男子、そして3年生の女子・青山桔梗(ききょう)生徒会長が並ぶ。
 青山会長は、剣道部の強豪選手であり、全国大会の個人戦でベスト8に入ったことがあるそうだ。
 星宮さんも中学時代はベータ男子とアルファ女子混合のバスケ部の副キャプテンだったそうで、運動神経には自信があるらしい。
 トップバッターのみ男女混合のため、女子2人は2年生男子に比べて5m距離が短い。

「星宮さん、頑張ってー!!!」
 至る所から星宮さんへ声援を送る女子たちの姿が見える。その中には、私のクラスメイトもいた。
 星宮さんはそんな女子たちに対して、にこやかに手を振る。
 星宮さん、やっぱり人気者だなぁ。それに、こうやって遠くから眺めると、星宮さんだけやたらとキラキラしている。

 そうこうしていると、トップバッターの3人はクラウチングスタートの体勢になり、ピストルの合図と共に走り出した。
 星宮さんと青山会長はほぼ並走状態となり、それを2年生の男子が追いかける。
 私と鏑木さんは、星宮さんに声援を送る。
 星宮さんと青山会長は終盤まで並走していたが、バトンパスの直前で星宮さんが徐々に青山会長の前を走るようになった。
 そして、そのまま1年生のほうが先に、バトンパスに成功する。
 第2走者は、そのまま1年生、3年生、そして少し間を開けて2年生の順で走る。

 第3走者にバトンが渡ったところで3年生が一気に追い上げ、1年生を抜かした。
 3年生の第3走者は、坊主頭で身長は2m、体重は100kgを超えていそうな、まるで熊のような――。
「3年生の()()()()、1年生を抜いてどんどん差を広げていきます!」
 放送部の実況が校庭に響き渡る。
 
 熊谷先輩――、彼こそが東部長の婚約者である「さっちゃん」だ。
 直接話したことはないけど、全校集会などで生徒会副会長として壇上に立っているのを何度か見たことがある。
 柔道の全国大会で優勝経験があるというだけあって、かなり大柄な男性で、初めて見た時は心底驚いた。
 それと同時に、「小柄な東部長と並んだら、そのギャップでむしろ絵になりそうだな」とも考えた。
 しかし、熊谷先輩、柔道が強いだけじゃなくて、足も速いのか……。
 熊谷先輩は1年生との差をどんどん広げていき、ほぼ独走状態で第4走者にバトンを渡す。

 第4走者はそのまま3年生が独走状態、1年生がそれを追いかけ、その遥か後方を走る2年生は何とか追い付こうとしている。
「2年生の第4走者・佐伯くん頑張ってください!」
 放送部の実況が響く中、ゼッケンを付けたアンカーがバトンパスの位置に並ぶ。
 そのアンカーの中に、前園先輩がいた。
 えっ、前園先輩、アンカーなの?

 3年生、1年生と順にアンカーにバトンが渡り、遅れて2年生の前園先輩がバトンを受け取る。
 流石にここまで3年生と距離が離れてしまっているので、逆転は絶望的かと思われた。何なら、1年生を追い抜くのも難しいかもしれない。
 しかし、走り出した前園先輩は、猛スピードでどんどんと追い上げる。
 前園先輩の大人しそうな風貌に似つかわしくない驚異的なスピードに対して、私は思わず目を剝いた。
 
「アンカー・前園くん、1年生との距離をどんどん縮めていきます!」
 そして、前園先輩はあっという間に1年生を追い越した。
 追い越された1年生は「はぁ!?」という驚愕の表情で、前園先輩の背中を見送る。
 その様子を見た会場は、徐々にざわつき始める。
 前園先輩はさらに、トップの3年生との差を縮めていく。
 
「前園くん、どんどん追い上げていきます!」
 前園先輩はついに3年生の真後ろまでやって来て、会場には「嘘だろ」という困惑の空気が流れ始める。
 そんな中、ゴールテープの手前で、前園先輩は3年生を追い抜かした。
 抜かされた3年生のアンカーも前園先輩の姿を見て、「はぁ!?」と口をあんぐりと開ける。
 そして、そのまま前園先輩はゴールテープを切った。

 前園先輩がゴールテープを切った瞬間、2年生のアルファクラスのテントと、2年生のリレーの出場者たちが歓喜に震える。
 その一方で、それ以外の生徒や教師たちはポカンと口を開けて呆けていた。
 それは、私も例外ではない。
 あんな絶望的な状況から、一瞬で逆転できることなんてあるのか……。
 
「……春川さんの婚約者、足速いね」
 鏑木さんは若干引き気味な感じで呟いた。
「う、うん……。そうだね……」
 私も少し引いている。
 人間は凄すぎるものを目の当たりにすると、引いてしまうようだ。

 ――前園先輩って、運動得意なの?
 ――うーん、どうだろうね……。俺は運動部に入ってないし……。

 前園先輩、めちゃくちゃ運動得意じゃん。
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