あなたが運命の番ですか?
「――そこのあなた」

 私たちが話し合っていると、突然誰かに声を掛けられた。
「あ、青山会長……」
 その人物は、青山生徒会長だった。
 腰まで伸びたストレートの黒髪に、銀縁の眼鏡をかけた「才色兼備」といった言葉が似合うアルファの女子生徒――。

「こんなところで何をしているの?」
 青山会長は、ベンチに座っている私たちを冷ややかな目で見下ろしながら、冷徹な口調で尋ねる。
「えっ、お昼を食べてるだけで――」
「あなたには聞いていません」
 青山会長は、答えようとした鏑木さんの言葉を強い口調で遮る。
 すると、鏑木さんは少しイラっとした表情を見せる。
 高圧的な青山会長に対して、「何だか嫌な人だな」と私は心の中で思った。

「私が質問しているのは、あなたよ。星宮真琴さん」
 青山会長は、星宮さんのことを真っ直ぐ見つめる。
「あなたはここで何をしているの?」
「……お、お昼を食べてるだけですけど」
 星宮さんは、青山会長に気圧(けお)され気味だ。
 
「では、そちらにいるオメガの彼女との関係は?」
 青山会長は星宮さんを見つめたまま、私を手で指し示す。
「……と、友達ですよ」
「友達……。つまり、婚約者でも何でもないというわけね?」
「あの!さっきから何なんですか?」
 すると、突然鏑木さんが痺れを切らしたように立ち上がった。

「私たちに何の用ですか?回りくどいことせずに、さっさと要件を言ってくださいよ」
 鏑木さんは青山会長に臆せず、立ち向かう。
 その場の空気がピリッと張り詰め、私は心臓がバクバクする。
 青山会長は、チラッと鏑木さんを見る。そして、何やら不敵な笑みを浮かべた。
「確かに、それはあなたの言う通りね。では、単刀直入に言います」
 青山会長は、再び星宮さんに視線を戻す。

「星宮真琴さん、あなたは春川寿々さんと縁を切りなさい」

 青山会長の衝撃的な言葉に、一同が驚愕する。
「はぁ!?何で、そんなこと――」
 鏑木さんが声を上げる。
「先日、春川さんのお母様から学校に連絡があったのです。『娘に前園優一郎以外のアルファを近づけさせるな』と」
「えっ……」
 私は青山会長の言葉を聞いた瞬間、全身の血が一気に凍った。
「どうやら彼女のお母様は、大事な娘に変な虫が付くのを危惧されているようです」
 青山会長の言葉を聞きながら、私は心臓がバクバクとして汗が止まらなくなる。
 そして、星宮さんも、先ほどまで青山会長に噛みついていた鏑木さんも、会長の発言に対して言葉を失っている様子だ。
 
「先生方から生徒会に、『前園優一郎以外のアルファが春川寿々に接触していたら、すぐ引き離すように』とお願いされたのです。ベータしかいない教職員の方々は、アルファの生徒に怖気づいて注意できないらしく、代わりに同じアルファの生徒会役員が注意するようにと頼まれました」
 青山会長は、先生たちのことを侮蔑しているような言い方をする。

「先生方に雑用を押し付けられるのは癪ですが、私も正式な交際関係でないアルファとオメガが親密にするのは良くないと思っているので、春川さんのお母様の主張には概ね同意ですね。アルファの星宮さんとオメガの春川さんが仲良くするのは、止めるべきでしょう」
「い、いや……、ヒートのことなら、春川さんが予定日の2週間前から真琴とは互いに近づかないようにするって決めていて……」
 鏑木さんは、動揺した様子で反論しようとする。

「あなたはヒートだけが問題だと思っているの?」
 青山会長は、「反論の余地は与えない」といった様子で返す。
「アルファがオメガに惑わされるのは、別にヒートに限った話ではありませんよ。ベータの男女だって、正式な交際関係でないなら、必要以上にベタベタするのは好ましくないですよね?間違いがあってはならないから――。それと同じです。ヒート以外でも、星宮さんが春川さんに変な気を起こさないとは限りません」
「なっ!?そ、そんなことあるわけないでしょ!!?」
 鏑木さんは声を上げて否定する。

「――()()()()()()()に一体何が分かるの?」
 青山会長は、鏑木さんを見下すように言い放つ。

「アルファ女性とオメガ女性の番なんて、この世に山ほどいるんですよ?つまり、オメガ女性に下心を持つアルファ女性は山ほどいるんです。それは星宮さんも、そしてこの私も例外ではありません。それはアルファ女性である私が、1番よく理解しています。それに、オメガの春川さんがアルファの星宮さんに力で敵うわけがありませんよね?ベータであるあなただって、力では星宮さんに負けてしまうはずです。私はただ、春川さんの身を案じているだけですよ」
 冷ややかな表情で淡々と意見を述べる青山会長に対し、鏑木さんは何も言い返せず悔しそうに唇を噛みしめる。
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