あなたが運命の番ですか?
アルファとベータ
青山会長が去った後、重苦しい沈黙が流れる。
アタシは、先ほどの青山会長の言葉を反芻する。
青山会長の言ってた売春行為をしていたオメガって、橘先輩のことだよね?
――でも、あの人、悪い噂があるんだよね。
初めて裏庭で橘先輩を見かけた時に、朱音ちゃんが言っていた言葉を思い出す。
悪い噂って、売春のこと?
あの時、橘先輩は複数人のアルファ男子に囲まれていた。
つまり、あれもそういうこと?
橘先輩がああいった行為に慣れているのは気づいていたが、まさか売春行為をしていたなんて思いもしなかった。
胸がザワザワする。
青山会長の話が本当だとすると、橘先輩は過去に、アルファに身体を差し出して金銭を得ていたということになる。いや、過去ではなく現在進行形か?
どちらにせよ、少なくとも1度はそういった行為をしたということだ。
何人のアルファが、橘先輩に触れたのだろうか。金銭を見返りに、一体何人のアルファが先輩の身体を――。
そんなことを考えていると、怒りが沸々と湧いてきた。
青山会長は、わざとアタシの前で橘先輩が売春していたと暗に伝えた気がする。
「オメガ」はともかく、「去年の1年生」と言ってしまったら、各学年に1人しかいないオメガであれば該当者が誰なのかすぐに分かってしまう。
――あなたは自制心のない猿に成り下がらないように。
青山会長は、アタシと橘先輩の関係を知っているのかもしれない。
彼女が売春行為の話をしたのは、アタシへの当てつけなのだろうか。
「ご、ごめんなさい……」
重苦しい空気の中、春川さんが口を開いた。
春川さんは下を向いて、膝の上で拳をギュッと握る。
「謝ることないよ。春川さんは何も悪くな――」
「違うの!」
慰めようとする朱音ちゃんの言葉を、春川さんは声を上げて遮った。
こんな大声を上げる春川さんを見るのは初めてなので、アタシも朱音ちゃんも驚く。
「じ、実は……、体育祭の後、お母さんに『星宮さんと仲良くしちゃダメ』って言われたの……。前園先輩以外のアルファと関わっちゃダメだって……。でも、私……、星宮さんと友達でいたくて……。お母さんにバレなきゃ大丈夫だって、思って……」
春川さんの声はどんどん鼻声になり、身体が小刻みに震え始める。
「ごめんなさい……。今まで黙ってて、ごめんなさい……。私が本当のこと話してたら……、星宮さんと関わらないようにしてたら……、星宮さんも鏑木さんもあんなこと言われなくて済んだのに……。私のせいで、ごめんなさい……」
春川さんは涙をボロボロ流しながら、何度もアタシたちに謝る。
「春川さんのせいじゃないよ。だから、謝らないで」
アタシは必死に笑顔を見せる。
友達でいたい――。その気持ちは痛いほど分かる。
アタシも、朱音ちゃんと春川さんとずっと友達でいたかった。
だけど、もう限界なのかもしれない。
「さっきの勉強会の話だけどさ、朱音ちゃんと春川さんの2人でやりなよ」
アタシがそう提案すると、2人は驚いた様子でこちらを見る。
「ちょっと、真琴、何言ってんの!?」
「だって、『次はないぞ』って脅されちゃったんだから、もうこれ以上春川さんと仲良くするわけにいかないし、それに――」
アタシは、朱音ちゃんの目を真っ直ぐ見つめる。
「朱音ちゃんだって、アタシと友達でいるの、しんどいでしょ」
アタシの言葉を聞くと、朱音ちゃんは反論しようと口を開けた。
しかし、すぐにハッとしたような表情になって、口を閉ざす。
「……バレてたんだ」
朱音ちゃんは肩を落として、力が抜けたように言う。
「幼馴染だからね」
アタシは無理やり笑ってみせた。
アタシがアルファと分かってからも、朱音ちゃんだけは以前と変わらずに接してくれた。朱音ちゃんは、アタシのたった1人の「親友」だ――。いや、そう思いたかった。
本当は、朱音ちゃんも変わってしまった。
だけど、朱音ちゃんだけは「友達でいよう」と努力してくれた。
アタシは、ずっと朱音ちゃんの優しさに甘えていたのだ。
「今まで、友達でいてくれてありがとうね、朱音ちゃん」
アタシは、先ほどの青山会長の言葉を反芻する。
青山会長の言ってた売春行為をしていたオメガって、橘先輩のことだよね?
――でも、あの人、悪い噂があるんだよね。
初めて裏庭で橘先輩を見かけた時に、朱音ちゃんが言っていた言葉を思い出す。
悪い噂って、売春のこと?
あの時、橘先輩は複数人のアルファ男子に囲まれていた。
つまり、あれもそういうこと?
橘先輩がああいった行為に慣れているのは気づいていたが、まさか売春行為をしていたなんて思いもしなかった。
胸がザワザワする。
青山会長の話が本当だとすると、橘先輩は過去に、アルファに身体を差し出して金銭を得ていたということになる。いや、過去ではなく現在進行形か?
どちらにせよ、少なくとも1度はそういった行為をしたということだ。
何人のアルファが、橘先輩に触れたのだろうか。金銭を見返りに、一体何人のアルファが先輩の身体を――。
そんなことを考えていると、怒りが沸々と湧いてきた。
青山会長は、わざとアタシの前で橘先輩が売春していたと暗に伝えた気がする。
「オメガ」はともかく、「去年の1年生」と言ってしまったら、各学年に1人しかいないオメガであれば該当者が誰なのかすぐに分かってしまう。
――あなたは自制心のない猿に成り下がらないように。
青山会長は、アタシと橘先輩の関係を知っているのかもしれない。
彼女が売春行為の話をしたのは、アタシへの当てつけなのだろうか。
「ご、ごめんなさい……」
重苦しい空気の中、春川さんが口を開いた。
春川さんは下を向いて、膝の上で拳をギュッと握る。
「謝ることないよ。春川さんは何も悪くな――」
「違うの!」
慰めようとする朱音ちゃんの言葉を、春川さんは声を上げて遮った。
こんな大声を上げる春川さんを見るのは初めてなので、アタシも朱音ちゃんも驚く。
「じ、実は……、体育祭の後、お母さんに『星宮さんと仲良くしちゃダメ』って言われたの……。前園先輩以外のアルファと関わっちゃダメだって……。でも、私……、星宮さんと友達でいたくて……。お母さんにバレなきゃ大丈夫だって、思って……」
春川さんの声はどんどん鼻声になり、身体が小刻みに震え始める。
「ごめんなさい……。今まで黙ってて、ごめんなさい……。私が本当のこと話してたら……、星宮さんと関わらないようにしてたら……、星宮さんも鏑木さんもあんなこと言われなくて済んだのに……。私のせいで、ごめんなさい……」
春川さんは涙をボロボロ流しながら、何度もアタシたちに謝る。
「春川さんのせいじゃないよ。だから、謝らないで」
アタシは必死に笑顔を見せる。
友達でいたい――。その気持ちは痛いほど分かる。
アタシも、朱音ちゃんと春川さんとずっと友達でいたかった。
だけど、もう限界なのかもしれない。
「さっきの勉強会の話だけどさ、朱音ちゃんと春川さんの2人でやりなよ」
アタシがそう提案すると、2人は驚いた様子でこちらを見る。
「ちょっと、真琴、何言ってんの!?」
「だって、『次はないぞ』って脅されちゃったんだから、もうこれ以上春川さんと仲良くするわけにいかないし、それに――」
アタシは、朱音ちゃんの目を真っ直ぐ見つめる。
「朱音ちゃんだって、アタシと友達でいるの、しんどいでしょ」
アタシの言葉を聞くと、朱音ちゃんは反論しようと口を開けた。
しかし、すぐにハッとしたような表情になって、口を閉ざす。
「……バレてたんだ」
朱音ちゃんは肩を落として、力が抜けたように言う。
「幼馴染だからね」
アタシは無理やり笑ってみせた。
アタシがアルファと分かってからも、朱音ちゃんだけは以前と変わらずに接してくれた。朱音ちゃんは、アタシのたった1人の「親友」だ――。いや、そう思いたかった。
本当は、朱音ちゃんも変わってしまった。
だけど、朱音ちゃんだけは「友達でいよう」と努力してくれた。
アタシは、ずっと朱音ちゃんの優しさに甘えていたのだ。
「今まで、友達でいてくれてありがとうね、朱音ちゃん」