あなたが運命の番ですか？

差別主義者

「えぇっ！？青山さんにそんなこと言われたの？」
　翌週、期末テスト前最後の園芸部活動日。
　私は花壇の草むしりをしながら、東部長に青山会長と星宮さんのことを話した。その際、橘先輩の売春行為について聞いたことは伏せておいた。

「あの人って、言ってることは正論なんだけど、言い方がキツいよねぇ」
「は、はい……。部長も何か言われたことがあるんですか？」
「２年生の時だったかなぁ？さっちゃんに借りた本を返そうと思って、ベータの友達と一緒にアルファ棟へ行ったの。そしたら、オメガが授業以外でアルファ棟へ来るのは良くないって注意されて……。その時、『思慮が浅くて残念な人ね』って言われたの。まあ、確かに、私の行動は良くなかったと思うけど、わざわざ『思慮が浅い』まで言わなくて良くない？」
「し、思慮が浅い……」
　東部長の話を聞きながら、青山会長の言葉がグサグサと私の胸に突き刺さる。
　私も昼休みにアルファ棟へ行ったなぁ……。しかも、１人で。
　確かにあの時、水瀬先輩に絡まれたりして大変だったので、「オメガが授業以外でアルファ棟へ来るのは良くない」というのは正論だと思う。
　しかし、「思慮が浅い」まで言われるのは傷つく。

　――あのね春川さん、オメガの子が１人でアルファ棟に来るのは危ないよ。全員がそうってわけじゃないけど、アルファクラスには素行の悪い奴らもいるから……。

　前園先輩は、優しく注意してくれたのに……。
　
「何？青山会長から何か厭味を言われたの？」
　プランターの手入れが終わったらしい橘先輩は、呆れたような表情で尋ねる。
「何かねぇ、アルファ女子の友達と仲良くしちゃダメって言われたみたいなの。青山さんのことだから、その時いろいろ嫌なこと言ったみたいでね」
「へぇ、アルファの友達ねぇ」
　橘先輩は怪訝な表情で、私を見る。
　
「あの人って親がどっちもアルファのアルファ一家生まれで、『ベータは召使、オメガは家畜』って考えてるような典型的な差別主義者だから、あんな人の厭味なんて気にしなくていいよ。まあ、親がどっちもアルファって言っても、どうせ血が繋がってるのは片方だけでしょ。アルファの女がわざわざ自分で子供産むわけないし」
「コラ、橘くん、そんなこと言っちゃダメでしょ」
　東部長が注意すると、橘先輩は「へぇ、へぇ、すみません」と面倒臭そうに言った。

　差別主義者か……。
　そう言われると、いろいろ納得できる。
　ベータの鏑木さんに対する見下したような態度と、オメガの私のことを視界に入れようともしない姿。

　――ア(・)ル(・)フ(・)ァ(・)の(・)あ(・)な(・)た(・)は(・)、きちんと考え、分別ができる脳を持っているはずでしょう？欲望の赴くままに行動する猿と違って、自制心を持って行動ができる――。あなたは自制心のない猿に成り下がらないように。

　青山会長は、まるで「アルファだけが考える脳を持っている」とでも言いたげな様子だった。
　青山会長にとって、オメガは「自制心のない猿」なのだろうか。