あなたが運命の番ですか?
大事な人
部活が終わり、私は図書室で前園先輩と合流して、一緒に下校する。
「春川さん、何か悩み事?」
「えっ!?」
駅のホームで電車を待っていると、突然前園先輩がそんなことを聞いてきた。
私は反射的に、前園先輩のことを見上げる。すると、先輩は心配そうに私を見下ろしていた。
「なんか、元気なさそうだから……」
「あっ……」
私、そんな暗い顔してたんだ……。
「もしかして、星宮さんのこと?」
「えっ、どうして……」
私は星宮さんの名前にドキッとする。
「この間の部活で会った時、彼女、ちょっと落ち込んでる感じがしたから……。2人って仲良かったよね?もしかしたら、関係あるのかと思ったんだ。もしも、俺の勘違いだったら、申し訳ないんだけど……」
前園先輩は私の様子を窺うように話す。
星宮さん、やっぱり落ち込んでるんだ……。そりゃそうだよね。
「俺で良かったら、悩み聞くよ」
前園先輩は優しい声で、そう言ってくれた。
私は少しだけ考えてから、「もうここまでバレてしまっているし、前園先輩なら話してもいいかな」と思って、星宮さんの件を全て打ち明けた。
「……辛いね」
前園先輩は終始真剣な面持ちで私の話を聞いてから、絞り出すように呟いた。
「……うん」
私も思わず小さく頷いた。
その後、しばらくの沈黙が続く。
「親しい人や大事な人が周りから非難されるのって辛いよね」
私は前園先輩のその言葉を聞いた瞬間、苦しかった胸がスッと楽になった。
前園先輩は、私が感じていることを言葉にしてくれたのだ。
「うん、うん……、そうなの……」
私は泣きそうになる。
星宮さんと友達でいられなくなったことも、もちろん辛い。
だけど、それ以上に私は、お母さんが星宮さんのことを危険人物のように扱ったことが辛かった。
星宮さんは、あんなに明るくて優しい人なのに……。
「俺も分かるよ」
「えっ?」
私は俯き気味になっていた顔を上げると、少し悲しそうな表情を浮かべた前園先輩と目が合った。
「俺の母親と、祖父のことは知ってるでしょ?」
「あ、うん……」
「亜紀母さんは確かに良くも悪くも真っ直ぐな人だけど、世間が思うほど強かな人じゃないよ。家族想いで、とても愛情深い人なんだ……。そして、それは祖父も、同じなんだ」
前園先輩は、自身の祖父・菊次郎前社長の話を始めた途端、言葉を詰まらせる。
「確かに、祖父は社員を奴隷のように扱う傲慢な人だった。世間から非難を受けても仕方のない人だったと思う。でも……、そればかりの人ではなかったんだ。少なくとも、俺の前では優しいお祖父ちゃんだったんだ。俺は、そんな優しいお祖父ちゃんのことが大好きだった……。だから、俺は祖父が世間からバッシングを受けているのを見るのが辛かった」
前園先輩は声を震わせながら、ポツポツと語る。
私の知らない菊次郎前社長の一面。
私は正直、かつて私のお父さんを苦しめた張本人である菊次郎前社長に良いイメージは持っていない。そして、これからもその悪いイメージは拭えないだろう。
だけど、前園先輩にとっては優しいお祖父ちゃんであったことは、本当なのだと思う。なぜなら、前園先輩はそんな嘘を吐くような人ではないから――。
「星宮さんが素直な良い子だってことは、俺も知ってる。君のお母さんが言うような悪いアルファじゃないって、俺も知ってるよ」
前園先輩の言葉1つ1つが、私に寄り添ってくれる。
「でも、だからと言ってお母さんの気持ちが分からないわけじゃないよ」
前園先輩は私を見下ろしながら、真っ直ぐ訴えかけるように私の目を見つめる。
「春川さんがベータの2人組に連れ去られそうになったのを見た時から――、いや、初めて会ったあのお見合いの時からかな?俺は、春川さんのことを危なっかしい人だなって思ってるんだ」
「えっ?そ、そうなの?」
私は、前園先輩に「危なっかしい」と言われて困惑する。
「うん。アルファの男から見たら、オメガの女性は簡単に壊すことができるくらいに危うい存在だから……。そんな人が俺みたいな力の強い人間に捕まってしまったら、どうなってしまうのか容易に想像がつく……。だから、春川さんを心配するお母さんの気持ちが分かるんだ。星宮さんがどんな人か知らないお母さんからすれば、アルファの女性と友達って聞いただけで心配で仕方なくなると思う」
前園先輩は、不安げな表情を浮かべる。
「でも、それ以上に、春川さんの意思を尊重したいと俺は思うよ。春川さんが大事だから、君を信じてるから、星宮さんとの仲を無理やり引き裂きたいとは思わない……。お母さんも、春川さんのことを信じて見守ってくれれば良いんだけどね」
前園先輩の真剣な眼差しに、私は吸い込まれそうになる。
私が、大事……?
改めて前園先輩の言葉を反芻して、私は顔がカァッと熱くなり、鼓動が早くなる。
すると、私のことを真っ直ぐ見つめていた前園先輩の顔が見る見るうちに赤くなる。
「……ごめん」
前園先輩は小さくそう呟いて、顔を背けてしまう。
「えっ!?な、何で謝るの!?」
「え、いや……」
前園先輩が口ごもっていると丁度電車が到着して、「ほら、早く乗ろう」と誤魔化されてしまった。
「春川さん、何か悩み事?」
「えっ!?」
駅のホームで電車を待っていると、突然前園先輩がそんなことを聞いてきた。
私は反射的に、前園先輩のことを見上げる。すると、先輩は心配そうに私を見下ろしていた。
「なんか、元気なさそうだから……」
「あっ……」
私、そんな暗い顔してたんだ……。
「もしかして、星宮さんのこと?」
「えっ、どうして……」
私は星宮さんの名前にドキッとする。
「この間の部活で会った時、彼女、ちょっと落ち込んでる感じがしたから……。2人って仲良かったよね?もしかしたら、関係あるのかと思ったんだ。もしも、俺の勘違いだったら、申し訳ないんだけど……」
前園先輩は私の様子を窺うように話す。
星宮さん、やっぱり落ち込んでるんだ……。そりゃそうだよね。
「俺で良かったら、悩み聞くよ」
前園先輩は優しい声で、そう言ってくれた。
私は少しだけ考えてから、「もうここまでバレてしまっているし、前園先輩なら話してもいいかな」と思って、星宮さんの件を全て打ち明けた。
「……辛いね」
前園先輩は終始真剣な面持ちで私の話を聞いてから、絞り出すように呟いた。
「……うん」
私も思わず小さく頷いた。
その後、しばらくの沈黙が続く。
「親しい人や大事な人が周りから非難されるのって辛いよね」
私は前園先輩のその言葉を聞いた瞬間、苦しかった胸がスッと楽になった。
前園先輩は、私が感じていることを言葉にしてくれたのだ。
「うん、うん……、そうなの……」
私は泣きそうになる。
星宮さんと友達でいられなくなったことも、もちろん辛い。
だけど、それ以上に私は、お母さんが星宮さんのことを危険人物のように扱ったことが辛かった。
星宮さんは、あんなに明るくて優しい人なのに……。
「俺も分かるよ」
「えっ?」
私は俯き気味になっていた顔を上げると、少し悲しそうな表情を浮かべた前園先輩と目が合った。
「俺の母親と、祖父のことは知ってるでしょ?」
「あ、うん……」
「亜紀母さんは確かに良くも悪くも真っ直ぐな人だけど、世間が思うほど強かな人じゃないよ。家族想いで、とても愛情深い人なんだ……。そして、それは祖父も、同じなんだ」
前園先輩は、自身の祖父・菊次郎前社長の話を始めた途端、言葉を詰まらせる。
「確かに、祖父は社員を奴隷のように扱う傲慢な人だった。世間から非難を受けても仕方のない人だったと思う。でも……、そればかりの人ではなかったんだ。少なくとも、俺の前では優しいお祖父ちゃんだったんだ。俺は、そんな優しいお祖父ちゃんのことが大好きだった……。だから、俺は祖父が世間からバッシングを受けているのを見るのが辛かった」
前園先輩は声を震わせながら、ポツポツと語る。
私の知らない菊次郎前社長の一面。
私は正直、かつて私のお父さんを苦しめた張本人である菊次郎前社長に良いイメージは持っていない。そして、これからもその悪いイメージは拭えないだろう。
だけど、前園先輩にとっては優しいお祖父ちゃんであったことは、本当なのだと思う。なぜなら、前園先輩はそんな嘘を吐くような人ではないから――。
「星宮さんが素直な良い子だってことは、俺も知ってる。君のお母さんが言うような悪いアルファじゃないって、俺も知ってるよ」
前園先輩の言葉1つ1つが、私に寄り添ってくれる。
「でも、だからと言ってお母さんの気持ちが分からないわけじゃないよ」
前園先輩は私を見下ろしながら、真っ直ぐ訴えかけるように私の目を見つめる。
「春川さんがベータの2人組に連れ去られそうになったのを見た時から――、いや、初めて会ったあのお見合いの時からかな?俺は、春川さんのことを危なっかしい人だなって思ってるんだ」
「えっ?そ、そうなの?」
私は、前園先輩に「危なっかしい」と言われて困惑する。
「うん。アルファの男から見たら、オメガの女性は簡単に壊すことができるくらいに危うい存在だから……。そんな人が俺みたいな力の強い人間に捕まってしまったら、どうなってしまうのか容易に想像がつく……。だから、春川さんを心配するお母さんの気持ちが分かるんだ。星宮さんがどんな人か知らないお母さんからすれば、アルファの女性と友達って聞いただけで心配で仕方なくなると思う」
前園先輩は、不安げな表情を浮かべる。
「でも、それ以上に、春川さんの意思を尊重したいと俺は思うよ。春川さんが大事だから、君を信じてるから、星宮さんとの仲を無理やり引き裂きたいとは思わない……。お母さんも、春川さんのことを信じて見守ってくれれば良いんだけどね」
前園先輩の真剣な眼差しに、私は吸い込まれそうになる。
私が、大事……?
改めて前園先輩の言葉を反芻して、私は顔がカァッと熱くなり、鼓動が早くなる。
すると、私のことを真っ直ぐ見つめていた前園先輩の顔が見る見るうちに赤くなる。
「……ごめん」
前園先輩は小さくそう呟いて、顔を背けてしまう。
「えっ!?な、何で謝るの!?」
「え、いや……」
前園先輩が口ごもっていると丁度電車が到着して、「ほら、早く乗ろう」と誤魔化されてしまった。