あなたが運命の番ですか?

勘違いさせないで☆

「どう?似合う?」
 橘先輩は小首を傾げながら、アタシにそう尋ねる。
「えっ……、何ですか?それ……」
 橘先輩の家へ入るなり、「着替えるから、ちょっと待ってて」と言われ、アタシはダイニングキッチンで大人しく待機していた。
 そして数分後、自室から出てきた橘先輩は、なぜか()()()()()を着ていた。

「何って、セーラー服だよ」
「いや、それは分かりますけど……、な、何で?」
 あからさまなコスプレ用のセーラー服をさも当然のように着ている橘先輩に、アタシは困惑する。
「こういうの趣味じゃない?」
「……今のところ、そういう趣味はないですね」
 アタシがそう答えると、橘先輩はムスッと拗ねた顔をする。
「……でも、可愛いと思いますよ」
 アタシがそう付け加えると、橘先輩は上機嫌な感じでニッと口角を上げた。

 橘先輩は中性的な見た目だが、やはり女の子の服を着ると少し違和感がある。
 同じく中性的な見た目のアルファ女性と比べても、半袖やスカートの裾から伸びた手足は角ばって見える。
 でも、可愛いというのは本当だし、似合っているとも思う。
 オメガ男性の女装姿が性癖の人間も、この世に存在するのだろうか。

「何で急に女装なんかするんですか?」
「うーん?まあ、気分転換?なんか、君、落ち込んでるみたいだし」
 橘先輩にそう言われて、アタシはギクッとなる。
 気丈に振る舞っているつもりだったが、上手く誤魔化せていなかったようだ。

 ――ヒート以外でも、星宮さんが春川さんに変な気を起こさないとは限りません。
 ――あなたは自制心のない猿に成り下がらないように。

 青山会長の言葉の数々が脳裏を(よぎ)る。
 あんなことを言われた後だと言うのに、アタシは性懲りもなく橘先輩と会っている。
 これでは青山会長に反論のしようがない。
 春川さんのことを性的な目で見たことは1度もないが、そういう疑いを掛けられても仕方がないと思う。
 アタシは、青山会長の言う「自制心のない猿」なのかもしれない。

「今日は、これ着てシよ?」
 橘先輩はアタシの元へ歩み寄ると、不敵な笑みを浮かべながら口付けた。
 さっきまで自分に嫌気が差していたが、橘先輩に触れられてしまうと途端に全てがどうでも良くなる。
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