あなたが運命の番ですか?
 しばらくの間、甘いひと時を過ごした後、アタシたちは唇を離して互いに見つめ合う。
「……星宮さん」
 気だるげな、そして熱っぽい声で橘先輩は、初めてちゃんとアタシの名前を呼んだ。その瞬間、ドキッと胸が高鳴った。
 ああ、ダメだ。どうしよう……。
「水、飲みます……」
 アタシは咄嗟に、目を逸らしながら起き上がる。

 アタシはベッドから降り、スクールバッグの中からペットボトルを取り出して、ゴクゴクと飲む。
 あんな顔で、あんな声で名前を呼ばれてしまったら、勘違いしてしまう。これは、ただの()()なのに……。
 
「先輩も飲みますか?」
 ペットボトル片手に振り向くと、橘先輩は身体を丸めてモゾモゾとしていた。
「何してるんだろう?」と思ってよく見ると、橘先輩はアタシが脱ぎ捨てたブラウスを頭からすっぽと被り、ミノムシのように包まって、スンスンと匂いを嗅いでいたのだ。
 
「ちょ、何してるんですか!?」
 アタシは驚いて橘先輩の元へ駆け寄り、ブラウスを掴む。
「アタシの制服……」
 橘先輩からブラウスを剥ぎ取ろうとするが、先輩は「うーん」と唸りながら両手でブラウスをしっかりと掴んで離そうとしない。
 一体、何の悪戯だ?
「い、意地悪しないでくださいよ!」
 グイッと思いっきり引っ張ると、アタシは何とかブラウスを取り返すことに成功した。
「もう……」とため息を吐きながら橘先輩の顔を見ると、先輩は口をへの字に曲げながらアタシのことを見つめていた。その表情は、拗ねた子供のようにも、悩ましげに誘っているようにも見える。
 その顔を見た瞬間、アタシはドキッとした。
「そ、そんな顔してもダメですよ……」
 アタシは慌てて視線を逸らす。

 この人が何を考えているのか、アタシにはさっぱり分からない。
「ベタベタするな」と突き放したかと思うと、逆に甘えてきたり、構ってほしいような仕草を見せたり……。
 アタシのことを翻弄して、からかっているのだろうか。
 遊び相手のことを本気にするアタシを見て、嘲り笑いたいのだろうか。
 そもそも、先輩は何でアタシとこんな行為を――。

 ――()()()()が行われていたという事実が発覚しているので……。

 売春行為……。
 そう言えば、橘先輩はアタシに1度も金銭を要求したことがないよな。
 売春行為の話を思い出すと、また怒りが湧いてきた。

「先輩って、アタシとこんなことしてるのに、アタシに見返り求めないですよね?」
 そんな言葉が、アタシの口をついて出た。
「……えっ?何?」
 橘先輩は起き上がると、眉間に皺を寄せる。
 不愉快そうに顔をしかめる橘先輩を見て、アタシは「しまった」と思った。
「あっ……、す、すみま――」
「僕に貢ぎたいの?じゃあ、夕飯奢ってよ」
「へ?」
 予想外の橘先輩の言葉に、アタシは唖然とする。
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