あなたが運命の番ですか?

嫉妬

 ダイニングキッチンへ向かうと、ダイニングテーブルで缶ビールを飲んでいる母さんの姿が目に飛び込んできた。
 何で、よりにもよって今日帰って来てるんだ……。
 僕は酒を飲んでいる母さんを横切って、自室へと向かおうとする。
「おかえりぃ」
 自室の扉を開けようとした瞬間、背後から力の抜けたフニャフニャの声が飛んできた。
「……ただいま」
 僕は振り返らずに、返事をした。
「ご飯は?」
「外で食べてきたよ」
 僕はそれだけ言い残して、自室に逃げ込んだ。

 僕はファミレスでの出来事を反芻して、大きくため息を吐く。
 何で、あんな話しちゃったんだろうなぁ……。
 親の話なんて、今まで1度も誰かに話したことなんて無かったのに……。
 
 おそらく、僕はごく普通の暖かな家庭のある星宮さんに嫉妬したのだろう。
 家に帰れば、当たり前のように夕飯を用意してくれている母親のいる星宮さんが羨ましかったのだ。
 
 ――いいね、ちゃんとした親がいて。

 あの後、本当は嫌味を言うつもりだった。
 でも、何も言葉が思い浮かばなかった。
 普通の家庭で育った星宮さんに、普通じゃない家庭で育った僕が何を言ってもただ空しいだけのように思えたのだ。
 だったら、せめて同情してほしかった。
 僕の暗い家庭事情を話して、星宮さんに同情されたかった。
 星宮さんに同情されて、慰めてもらいたかったのだ。
 案の定、彼女はさっき僕のことを抱きしめてくれた。
 星宮さんがそういうことをする人間だと知っているから、僕はその優しさに甘えたかったのだ。
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