* Snow gift *
 12月23日、午後10時49分。



 速やかな機材のセッティングが必要不可欠。

 だらだらとセットして気付かれたんじゃサプライズの意味がない。

 だから事前の打ち合わせはすごくピリピリムード。

 そんな中アタシは、

「La・La・La~LaLaLa~……」

 曲目の確認と発声に余念がなかった。

 ただ、車窓から伝わってくるキィン、と冷えた空気から喉を守りつつもアタシはこのライヴに疑問を感じずにはいられなかった。

 そもそもライヴって歌う本人を交えてじっくりと、事前に、日程の調整をしながら予定をしていくものであって、今日の今日やるようなもんじゃないと思うの。

 ましてや今回のことはアタシだけ何も知らされてなかった。

 そんなことってありえる?

「眉間のシワ、とっておいてくださいね?」

 と、そこにやってきたのはおそらくはこの企画の立案者であろうマネージャー。

 こうなればいっそ単刀直入正面突破。

「ね。どしてこんな急にライヴなんて?」

 すると彼は困ったように笑いながら、

「歌って、欲しかったんですよ……」

 そう答えた。

「どういうこと?」

 意味がつかめずに再び眉間にシワを寄せるアタシに彼はこう続けた。

「このところ、歌があまり楽しくなさそうだったので。原点に立ち返るというか、気構えなく突発的なライヴをすることで純粋に歌をアナタに楽しんでもらえるかな、と」

「…………」

「思い出して欲しいんですよ。歌の楽しさ、面白さ、嬉しさを」

 少し照れながら、けれど最後には瞳をまっすぐに見つめてきたマネージャー。

 その真剣な想いと言葉は衝撃で、それと同時にアタシは自分が恥ずかしくなった。

 この人はこんなにも自分のことを見てくれていたのに、アタシは、アタシ自身は何をしてたんだろう?

 こんな顔をして欲しかったんじゃない。

 アタシのために、アタシに向かって、アタシの手で、笑顔になって欲しかったんだ。

「そろそろ、時間ね……みんな、準備はオーケイ?」

 なら、やるべきことは、ひとつ……。




「今宵のシンデレラはここからが始まりよ!」

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