ホスト、田舎娘に振り回されてます!〜恋のプロが、ウブなアイツに本気になったら〜

ホストと田舎娘

――それは、桃乃が人生で初めて、歌舞伎町の魔窟に足を踏み入れた日だった。

「すみませーん!!」

 桃乃は大きな声で呼びかけた。

 キラキラとしたシャンデリアが輝く店内。妙に照明が暗い。そこかしこにスーツ姿のイケメンがいて、ドレスを着た女性たちと談笑している。

 ここは、ホストクラブ。

「ちょっと道に迷っちゃって……!」

 ホストたちが一斉に視線を向ける。

「……」
「……」

 ポカンとするホストたち。

 「え、誰?」 という空気が店全体に充満する。

 桃乃はおもむろにポケットから 手書きの地図 を取り出した。

「この地図を頼りに歩いてたんですけど、どうも現在地がわからなくなっちゃって……。今どこですか?」

「…………」

 ホストたちの反応。

「……地図、手書き?」

「これ、絶対どっかの田舎のばあちゃんが書いたやつだろ」

「『この角を曲がったらナンチャラ商店の赤いのが見える』って……ナンチャラ商店ってなんだ?」

「つーか、ここがホストクラブだってわかってる?」

「え? ホストクラブ???」

 ようやく気づく田舎娘。

 店のゴージャスすぎる内装と、イケメンたちの妙な視線にようやく違和感を覚えた桃乃。

「……あっ、ほんとだ。お酒の瓶がいっぱい……」

「遅ぇよ」

 その時――

「騒がしいと思ったら、迷子か?」

 奥のソファに座っていた男が、ようやく立ち上がった。

 黒髪、長身、クールな雰囲気。
 首には、黒いアザミのタトゥー。

「……墨さんだ!!!」

 桃乃が勢いよく指を差した。

 ホストたち:「……墨さん?」

「は?」

 朔(さく)と呼ばれるホストが、眉をひそめた。

「ちょっと、入れ墨入ってるからって『墨さん』って勝手にあだ名つけるな」

「いやでも! 首のアザミ、すごく印象的だし!」

「だからって、初対面であだ名つけるな」

「でも、すごくわかりやすいじゃないですか! ね、みんなもそう思いません?」

 他のホストたち:「……まぁ、確かにわかりやすいっちゃわかりやすい」

「おい、お前らまで納得すんな」

「それで、墨さん! ここから駅に出るにはどっちへ行けば?」

「俺は道案内じゃねぇ」

「じゃあ、お酒一本だけ飲ませてもらったら教えてもらえます?」

「……お前、意外と適応力あるな」

「田舎の人間はな、対応力が命なんですよ!!」

「自信満々に言うことか、それ」

 こうして、田舎娘・桃乃とホスト・朔の 最悪な(?)出会い は幕を開けたのだった。
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