ホスト、田舎娘に振り回されてます!〜恋のプロが、ウブなアイツに本気になったら〜

墨さんと酔っ払い大騒動

——ある夜。

 桃乃は、歌舞伎町の路地裏でグラグラと揺れていた。

 「うぇぇぇ……頭ぐるぐるするぅ……」

 人生初の“ベロベロ”状態。

 地方の飲み屋しか知らない桃乃が、「都会のバーってどんな感じ?」という興味本位でオシャレなバー巡りをしていたのだが——

 調子に乗ってカクテルを飲みすぎた結果、完全に迷子になった。

 スマホを握りしめ、フラフラと歩きながら助けを求める。

 「や、やばい……帰れない……」

 田舎の居酒屋なら、常連の店員さんが「大丈夫かー?」と心配してくれるのに、歌舞伎町ではそんな甘えは通用しない。

 途方に暮れながらスマホの履歴を眺めると——

 「墨さん」

 そういえば、前に交換したホストの連絡先があった。

 ……ホストって、お酒のプロだよね!?

 迷った末に、震える指で通話ボタンを押した。

 プルルル……プルルル……

 『……お前、今どこ?』

 「すみさぁぁぁん……」

 『……酔ってんのか』

 「うぅ、どこかわかんなくなっちゃった……」

 『はぁ……』

 電話越しに、深いため息が聞こえた。

 『動くな。そこにいろ』

 ——5分後。

 「……バカか、お前」

 そう言いながら、墨さんこと朔がやってきた。

 黒いロングコートを羽織り、夜の街に溶け込むような佇まい。

 だけど、その目はじっと桃乃を見下ろしていた。

 「なんでそんなになるまで飲んでんだ」

 「うぇぇぇ……都会のお酒、強すぎる……」

 「……ったく」

 ため息をつきながら、朔は桃乃の腕を引いた。

 「ほら、歩けるか」

 「うぅ……ちょっとだけふわふわする……」

 「仕方ねぇな」

 そう言うと、突然——

 ひょいっ

 「え!?ちょっ、えぇぇ!?!?」

 桃乃は一瞬で、朔の背中に担ぎ上げられた。

 「お姫様抱っことかじゃなくて!?
 完全に米俵スタイル!?!?」

 「お前、暴れるな」

 「ちょ、恥ずかしい!!」

 「歩けねぇならこれが一番早いだろ」

 「せめて、普通に支えてください!!!」

 「めんどくさい」

 「ひどい!!」

 背中に担がれながら、桃乃はバタバタと暴れた。

 だけど、朔は微動だにせず、そのままスタスタと歩き続ける。

 夜の歌舞伎町を、ホストに米俵みたいに担がれている女——超絶にダサい。

 「あ、あの、墨さん……」

 「ん?」

 「これ……恥ずかしくないですか?」

 「俺は別に」

 「私が恥ずかしいんです!!」

 「じゃあ、酔っぱらうな」

 「ぐぬぬ……」

 しばらくして、タクシー乗り場に到着。

 「おい、ちゃんと乗れよ」

 「はぁい……」

 フラフラしながらタクシーに乗り込む桃乃。

 後部座席に沈み込みながら、ぼんやりと朔を見上げた。

 「……墨さん、優しいですね」

 「勘違いすんなよ。客が潰れてたら、ホストの評判に関わるだけだ」

 「……うぅ、やっぱりクール……」

 「ほら、住所」

 「はぁい……」

 スマホを朔に渡すと、彼は運転手に住所を伝え、軽く手を振った。

 「次から気をつけろよ」

 タクシーが走り出す。

 「……はぁ、やっちゃった……」

 桃乃はぼんやりと街を見ながら、ため息をついた。

 ——でも、なんだかんだで助けに来てくれるの、ずるいなぁ。

 なんて、ちょっとだけ思った。
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