ホスト、田舎娘に振り回されてます!〜恋のプロが、ウブなアイツに本気になったら〜

タバコ、吸うんですか?



カラン、とグラスの氷が揺れる音がした。

「ねえ、タバコ吸うんですか?」

唐突な問いかけに、朔は手を止め、視線だけを桃乃に向ける。

「……ああ」

「へぇ~」

「何だ、その反応」

「いや、なんか意外だなって」

「どこが」

「もっとこう、完璧なホストって感じだから、タバコの匂いとかつけなさそうだなって思って」

「……必要なら控える」

「あ、やっぱりプロ意識は高いんですね!」

「……でも吸うときは吸う」

「どっちなんですか!」

◆ 「タバコ吸う人どう思う?」問題

「じゃあ、私がタバコ吸ってたらどう思います?」

「似合わねぇ」

「即答!! いや、わかんないですよ? もしかしたらすごいサマになってるかも」

「ねぇよ」

「なんでですか!」

「お前がタバコくわえてたら、どうせ火をつける前に灰皿に落とす」

「いやいや、不器用すぎじゃないですか!?」

「それか、吸った瞬間むせる」

「むせません!」

「ほら、こうやって想像するだけで無理がある」

「むむむ……」

◆ 「試しに吸ってみる?」問題

「じゃあ、一本ちょうだい」

朔がじっと桃乃を見つめる。

「……本気で言ってんのか」

「だって、試してみないとわかんないじゃないですか」

朔は小さく息をつき、ポケットから細身の箱を取り出した。

パチン、とライターの蓋を開ける音が響く。

「吸うならちゃんとしろ。適当にやると気持ち悪くなる」

「……そ、それくらいできます!」

桃乃はぎこちなくタバコをくわえ、震える手で火をつけようとする。

「おい」

「な、なんですか」

「逆」

「え?」

「それ、フィルターじゃなくて葉っぱのほう」

「ぎゃーー!!」

朔が呆れたように額を押さえる。

「だからやめとけって言っただろ」

「いやいや、ちょっとミスしただけで!!」

「はい、終了」

タバコを取り上げられ、桃乃は不満げに頬を膨らませた。

「もう少し……もう少しだけチャレンジさせてください!!」

「ダメ」

「けちー!」

「何が『けちー!』だ」

朔は冷めた目で桃乃を見下ろしながら、ゆっくりと自分のタバコに火をつけた。

「……ほら」

細く煙を吐きながら、少し視線を落とす。

「こうやって見るだけにしとけ」

「……」

桃乃は少しだけ視線を奪われた。

なんとなく、いつもの朔とは違う雰囲気がした。

「……なんか、かっこつけてません?」

「……返せ」

「え、何を」

「今のお前の感想」

「いや、感想を返せって何ですか!!」

「俺は別にかっこつけたつもりはねぇ」

「いや、無意識でやってるのがずるいんですよ!!」

「……うるせぇ」

「むぅ~~!!」

その後、桃乃は「タバコは見るだけにする」と誓わされたのだった。
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