【改訂版】ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ

ベッドイン


 恋人同士でも、密度には個人差がある。バージンの桃瀬は、その距離感を知らずにいた。

 
 金曜日の夜、念入りにシャワーを浴びて石和(いさわ)の部屋を訪ねた桃瀬は、素手(からて)ではなく洋菓子を持参した。会社の同僚が休憩時においしいと話していたケーキ屋のシュークリームである。カスタードと生クリームのダブルシューは、生地にたっぷりバターを使っているため、ワインに合うと調べてから買った。石和の部屋にはシンプルな後付けバーカウンターがあり、ソフトレザーのハイスツールが二脚セットされている。

 玄関のチャイムを鳴らすまえに、ドアがあいて石和が「いらっしゃい」と出迎えた。ホワイトシャツに衿付きダブルボタンのベストをスタイリッシュに着こなしている。スーツの上着を脱いだだけなのに、紳士の色気が半端ない。桃瀬のほうで、思わずクラッとめまいがした。石和とはエッチな雰囲気になってもかまわない桃瀬は、やや薄着だった。夜風が少し肌寒い。

「どうぞ、はいって」

「おじゃまします。あの、これ、シュークリームです。いっしょに食べようと思って……」

「ありがとう。先にバーチェアへ坐っていてくれるかい。なにか作ろう」

 石和の作ろうとは、料理ではなくお酒である。桃瀬は「はい」とうなずき、靴をそろえて脱ぐと、リビングへ向かった。窓辺のパイプベッドに目がとまり、ドキッと心臓が高鳴った。……今夜こそ、石和さんを信じよう。そうすれば、なにもかもうまくいくはずだから……。

「理乃ちゃん、酔ってる?」

「ふえ?」

 ほろ苦い赤ワインと甘いシュークリームを堪能するうち、桃瀬の体温はぽかぽか上昇して、肌はしっとり汗ばんでいた。となりに坐る石和は、桃瀬の手からグラスを取ってカウンターにおいた。数秒ほど見つめあうと、いよいよそのときがきた。

「このあいだのつづきをしても、いいかな?」

「……は、はい」

 石和は笑みを浮かべ、シャツブラウスの(ボタン)をひとつずつ()き、パサッと床へ落とした。肩と膝下に腕をまわして桃瀬を抱きあげると、パイプベッドへ運んだ。……わわっ、これってお姫さまだっこじゃない!(高い〜っ、ちょっとこわいかも!?)

「い、石和さん、わたし、こういうのは初めてで……、じぶんでも、なにが起こるかわからなくて……、だから、ちゃんとできるかどうか……」

「心配しないで、理乃ちゃん。そのまま力を抜いていておくれ」

 桃瀬の不安を解消しながら躰をつなげる準備をする石和は、しずかに、これまで以上の欲望を自覚した。


✦つづく
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