【改訂版】ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ
ぎりぎりアウト
桃瀬は、現在、石和の部屋でベッドインの最中である。
「理乃ちゃん、だいじょうぶかい」
桃瀬の状態を察して眉を寄せる石和は、幾度も気づかった。
「理乃ちゃん、ちょっと深呼吸してみようか。しっかり息を吸いこんで、ゆっくり吐こう。……いいよ、その調子。上手だね」
余裕のある石和の表情は、おちついている。初体験の桃瀬は、体力も気力も消耗ぎみで、云われたとおりに呼吸するのみである。
「平気?」
「は、はい、なんとか……」
顔をのぞきこまれ、どんな表情をしているのか不安になる桃瀬は、躰を横向けた。石和はうしろ抱きにして寄り添い、しばらく動かずにいた。……ど、どうしよう。やっぱり、最後までは無理かもしれない。こわい、こわい、こわい……っ!!
「理乃ちゃん、おちついて。最初はね、どうしても緊張するよね。それは当然のことだから、なにも問題はないよ。安心しておくれ」
背後からきこえてくる石和の声や息づかいが、桃瀬の胸をキュウッとしめつける。ここまできて、首を横になんてふれない。しかし、桃瀬のショルダーバッグから携帯電話の着信音が鳴りひびく。
「理乃ちゃん、起きて。電話だよ」
「……で、でも」
「ぼくのことはいいから、出てあげて。緊急の用事かもしれない」
「すみません」
「いいよ、気にしないで」
ベッドから起きあがり差しだされたバスタオルを巻きつけると、携帯電話の通話に応じた。「もしもし」画面に表示されていた相手の番号は、母だった。父に病巣が見つかり摘出手術が必要だと連絡を受ける桃瀬は、こんなときにどうしてと、ことばがもつれてしまった。電源を切らずにいたのはマナー違反かもしれないが、石和は、床に散らばった桃瀬の洋服を拾い集めてくれた。
「理乃ちゃん、だいじょうぶ?」
「すみません。母からでした」
「なにかあったの?」
「父が、入院するみたいです」
「それは、たいへんだ。ぼくがお見舞いに行けたらよかったけれど、こんなおじさんがいきなりうかがったら、迷惑だろうね」
「そ、そんなことありません……」
「これからのことは(将来のことだよ)、あとでゆっくり考えよう。いまは、お父さんを心配してあげて。……さあ、立って。バスルームを使っておいで。風邪をひかないように」
「……はい、ありがとうございます」
石和から服を受けとった桃瀬は、ほんじつ二度目のシャワーを浴びた。携帯電話が鳴りひびかなければ、石和とどこまでいけたのか、父の病気はどこまで悪いのか、その父といくつも年齢がちがわない恋人を、はたして紹介できるのか、さまざな不安材料が脳裏に浮かびあがる桃瀬は、ゾクッと寒気がした。
✦つづく