※修正予定あり【ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ〜イケおじの溺愛がとまらない!?〜】

不釣り合い


 石和(いさわ)とベッドインしても最後まで至らず、未遂で終わった桃瀬(ももせ)だが、体内へ挿入された指の感覚はいつまでも残留し、仕事中に何度も下腹部の違和感が気になった。……石和さんの、あんなに大きくなってたのに、がまんしてくれたんだよね。本当は、最後までしたかったはず……。

 恋人の時間は母からの着信で打ち消された挙句(あげく)、あらためて父の病状を確認すると、急性の虫垂炎であることが判明した。いわゆる盲腸につき、命にかかわるような手術ではなく、ひとまず安心した。


「ねえ、桃瀬さん。これって、どこで買ったの?」


 昼休み、女子更衣室のロッカーで、ひとりの同僚が話しかけてきた。ショルダーバッグに付けているペンギンのキーホルダーを指さして、桃瀬の脇を突く。ふだんならば滅多に会話が発生しない相手だが、「水族館です」と、正直にこたえた。

「えー? 桃瀬さんって、そんなところに行くんだ。へえ、誰と行ってきたの?」

「誰……」

「あ、ごめん。もしかして家族? このキーホルダーかわいいね。水族館のサイトで通販できるか、ちょっと調べてみよっと!」

 いくつになっても家族と旅行してはいけない理由などないが、鼻で笑われたような気がする桃瀬は、厚化粧でロングヘアーにストレートパーマをかけた同僚の胸もとへ視線を落とした。……Dカップくらいかな。いいな、胸があって、うらやましい。

 どんなに厭味を()われても、負い目を感じる桃瀬は、石和とつきあっている現実が、ふしぎに思えた。異性との交際経験などない桃瀬にとって、石和は初めての彼氏と呼べる存在で、あまりにもハイスペックな紳士である。完璧すぎて気後(きおく)れするほどだ。……肉体関係がすべてじゃないとしても、わたしはきっと、石和さんをがっかりさせてばかりいる。……これから、どうすればいいの?

 一線を越えられないまま、ひと月が経過した。



「……石和さん、はっきり()きますけど、いいっすか」
「どうぞ」
「おれが理乃(りの)ちゃんに手をだしたら、どうしますか?」
「ていどにもよるけれど、死人がでるだろうね」
「それ、まじめに云ってる?」
(ある)いは」
「あ、或いは?」
「きみがいちばん大事にしているものを(こわ)す」 
「げっ、(こわ)。目が笑ってない」
「ぼくに、懺悔(ざんげ)したいことでもあるのかい」
「……ええ、まあ、いちおう謝罪しておきますよ。おれ、理乃ちゃんの首筋にあるホクロにさわりました。すみません」


 確かに、桃瀬の首筋にはホクロがあったが、髪に隠れているため、ひと目では気づかない部位である。「ほかには?」と追及された(あくつ)は、「それだけっす」と、唇を(とが)らせた。桃瀬の躰には、あちこちホクロがあった。手首や太腿の内側にもあり、そのすべてに()れている石和は、悶々として煙草(たばこ)(けむり)を吐く青年を見て、欲求不満なのだろうかと思った。実際、歳上の沙由里(さゆり)に交際を申しこんで、あっさりフられている。

 レッドサンズの二階にあるバーカウンターで、カクテルを作って提供する副業は、ひき受けてから三年ほど経つ。多くの女性客をもてなすうち、一夜(いちや)だけでもと誘われてホテルへ行くこともあった。いざ、ベッドの上で抱きあってみると、彼女たちの豊満なボディや積極的な態度は、身体の興奮要素としては成り立つが、石和の体温や呼吸と連動しないどころか、求める期待をしらけさせた。


「ぼくはね、いまさら後へは引けないんだ。今後、理乃ちゃんが直面する事態を、ふたりでどう対処していくべきか、真剣に考えている」

「そんなのは、いまさらじゃないっすか。……おれ的には、石和さんが理乃ちゃんを説得して、かけおちでもすればいいと思ってるし」

「きみ、滅多なことを云わないでくれ。ぼくは筋を通すつもりだ」

「ふうん? (セックスもまだなのに、娘さんをくださいってか!?)」


 レッドサンズの裏窓でそんなやりとりがあった翌日、石和の携帯電話に桃瀬から着信があった。


✦つづく
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