【改訂版】ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ
アホの子
「ごめんね、理乃ちゃん、もういちど云ってくれる?」
携帯電話ごしに桃瀬と会話する石和は、口もとに片手を添え、いくらか当惑した。というのも、二十歳の恋人から、「しばらく逢えない」と(唐突に)告げられた。不安材料をあたえている原因は承知していたが、前置きもなく拒絶された石和は、冷静に対処した。
「ずいぶん急に遠ざけるね。なにかあったのかい? よければ、理由をおしえてくれないかな」
石和にしてはめずらしく、やや早口になってしまったが、桃瀬は『実は……』と、質問に答えた。
『わたし、生理なんです。おなかの痛みがひどくて……、だから、きょうから一週間、石和さんには逢えません』
石和とエッチな雰囲気になってもベッドインできないと判断した桃瀬は、交流を控えようとした。いっぽう、男性側としては、女性特有の症状への配慮は当然の義務であり、彼女の「逢えない」という意見は尊重したいところだが、石和の交際目的は、肉体関係が前提ではない。
「そう、女の子はえらいね。つらいときは無理しないように。ぼくでよければ援助もできるよ。遠慮なく頼っておくれ」
『そ、そんなこと、石和さんにしてもらうなんてできません……。お気持ちだけで、とてもうれしいです……』
石和としては、桃瀬の将来を支える存在を名乗りでたつもりだが、見事にスルーされた。……この子は、わかっているのかな(誤解を正すべきか悩ましい)。……ああ、でも、かわいいな。ぼくだけ興奮してしまう。
「逢えない理由はわかったよ。おしえてくれてありがとう。ぼくの配慮が足りなかったようだ。申しわけない」
『わたしのほうこそ、いろいろすみません……』
「体調がよくなったら、また電話して。おいしいものでも食べに行こう」
『は、はい、わかりました。……おやすみなさい』
「おやすみ」
先に回線を切った桃瀬は、ベッドのなかでホッと息を吐いた。まだアパートの駐車場にいて着信に応じた石和は、二階にある桃瀬の部屋を見あげた。
「理乃ちゃん……」
この状況を圷にしれたら、腹をかかえて吹きだすかもしれない。「生理中は逢えないって、なんすか、それ! ウケる!」そんな幻聴に「ふっ」と笑みがこぼれる石和は、「理乃ちゃんは本物の乙女だね」と、桃瀬の性格を愛らしく思った。これまで知りあった女性とは異なる部類につき、進展を急ぎすぎたかもしれないと、石和のほうで自重した。
桃瀬が合鍵を使わない理由は、イコール、性的な流れを敬遠しているからではないかと考えた石和は、もうしばらく辛抱が必要だと解釈した。書類かばんをテーブルに置き、スーツの上着を脱いでハンガーに吊るすと、ハイスツールへ腰かける。無意識に「これでは不可ないな」そうつぶやくと、浅ましい感情を打ち消した。
石和に諦念をもたらした桃瀬だが、背中がゾワゾワしてくると、携帯電話を枕もとにおいて眠りについた。
……次こそがんばろう。いいかげん呆れられちゃうかもしれない。……でも、男のひとって、びっくりするくらいたくましいンだもん。……う~っ、こわいよ、お姉ちゃん……。
イケおじの石和にテクニックが下手なイメージは微塵もないが、桃瀬の不安は尽きなかった。……結局、今週は鬱々とした気分で過ごした。
✦つづく