※修正予定あり【ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ〜イケおじの溺愛がとまらない!?〜】
外食のあと
週末の昼、駅前にあるブティックでダスティローズ色のガーリー系ワンピースを見つめる桃瀬は、花柄のスカーフを首に巻いた女性スタッフに歩み寄られ「そちらは試着できますが、いかがですか?」と声をかけられた。好ましい楕円の衿付きだが、ウエストリボンがないため、上半身の肉厚に欠ける桃瀬が着ると、足首までストーンと落ちて、ボディラインがぼやける。
はっきり云って、Aカップの体系には似合わない。ところが、女性スタッフは「ぜひ、あちらでどうぞ」と、半ば無理やり試着をすすめた。結局、断れずに購入した桃瀬は、アパートの部屋に帰宅したあと、紙袋からペチコートを取りだし、「こんなの着たら、笑われないかなぁ」と、眉を寄せた。ワンピースは薄い素材のレース編みで、透け防止のペチコートを下着として身につける。シルクのようなサラサラとした手ざわりは素肌に気持ちいい。
石和との性行為は息が詰まる展開がつづく桃瀬だが、略礼装なドレスコードが必要になる外食に備えて着るものを新調すると、ショルダーバッグのなかから携帯電話を抜きとり、メールを確認した。
二日ほど前、いつもの体調に回復した桃瀬は、石和に連絡した。水曜日の夜に外食をする約束をして、予約した店名をメールで受信する。本来、水曜日はセブンスターというバーで働く石和だが、レッドサンズの定期メンテナンスにより、三日ほど店が休業となり、からだが空いたという。
「……ふう、前日から緊張してどうするの。……深呼吸、深呼……吸……うっ!?」
石和の腕に抱かれる姿を想像して自滅する桃瀬は、あすの仕度を念入りにすませた。一線を越えた先にある問題は山積みだが、目のまえの現実に集中して、翌日を迎えた。
日中の仕事を終えて帰宅した石和は、シャワーを浴びてダークスーツに着がえると、アンティーク調の高級腕時計を左手首に嵌めた(石和は両利きだったが、ふだんは右手を使う。桃瀬の体内へ挿れた指も右)。薄手のコートをはおり、駐車場で恋人を待つ。あたりが薄闇に包まれると、白いカーディガンの下にガーリーなワンピース姿の桃瀬が部屋から出てきた。ロング丈だが、素材が薄くて軽いため、歩くたびふわふわとレースがゆれる。フェミニンスタイルではなく、甘めのかわいらしい服装が、幼さを感じる桃瀬によく似合っていた。石和の目には本人が気にするほど胸部の低さは気にならなかった(じかに触れているし、Aカップは熟知している)。
「かわいいね」
「……嘘……」
「きみは、すぐにそうやって首をふるが、ぼくが嘘をついたことあるかな」
「……あ……ありません?」
「いま、疑問符をつけたね。誓って、本心からでたことばだよ」
うるわしいイケおじに微笑まれ、すでに桃瀬の顔は熱い。助手席のドアをあけてエスコートされ、シートベルトをつけながら今夜の予定を確認した。
「あの、ごはんを食べたら、石和さんの部屋に寄ってもいいですか?」
これから行く店はフレンチレストランにつき、ディナーと発音すべきだが、石和はハンドルを軽くにぎり、助手席へ顔を横向けた。
「今夜は、アパートにはもどれないよ。食事のあとは、ホテルに行くんだ。……朝帰りになるけれど、だいじょうぶかな」
「朝ですか? 仕事に間に合う時間なら、だいじょうぶです。どこか、ホテルに泊まるんですか?」
真顔できき返された石和は、小さく咳払いをして、桃瀬の膝に左手を載せた。その指は、服の上からでも恋人の体温をとらえる。
「あのね、理乃ちゃん。男が外食に誘ってホテルへ行くと云えば、なにを要求しているのか、考えてご覧」
神妙な顔で見据えられ、桃瀬の心臓はドキッと短い脈を打つ。膝に載せた石和の指が、すっと、のびてきて、首筋のホクロに触れた。
「石和さん……」
「逃げたくなった?」
「わ、わたしは逃げたりなんてしません」
「ぼくは、催促しているわけではないよ。もうしばらく、きみのペースにつきあうつもりだからね。どうしても無理ならば、いま、首をふってくれ。車を走らせたあとは、止められない。……よく考えて決断してね」
そういって運転席にもたれる石和は、ダッシュボードのなかに贈物をしのばせていた。水族館で約束した口紅である。外泊の許可を得たら、この場で渡すつもりだ。
✦つづく