【改訂版】ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ
ホテルにて
サイドテーブルに置かれた口紅が、コトンッと倒れた。ほんのり上気した頬のようなチェリーブロッサム色は、桃瀬の唇を甘く華やかに染める。石和との深い口づけですっかり落ちてしまったが、肌は赤く燃えているように感じた。
「ペチコートを脱がせるなんて、初めてだ。理乃ちゃんは、いつもぼくを興奮させてくれるね」
ギシッと軋むベッドの上で、筋のない長い指が桃瀬の衣服を脱がせていく。
「あ……、あ……」
「ふふ、理乃ちゃんはどこを見てもかわいいな」
「そんなことは……」
「あるよ。ほら、ここもだ」
「や、やだ。じっくり見ないで……」
恥ずかしさのあまり、つい反発の声をあげてしまう桃瀬は、息苦しいほど呼吸が乱れた──。
二時間ほど前、西洋風の建物でフレンチのディナーを(テーブルマナーに不慣れで石和の手の動きを真似しながら)ごちそうになった桃瀬は、お手洗いのため席を立つと、アパートの駐車場で受けとった四角い小箱をパカッとあけた。石和からの贈物で、チェリーブロッサム色の口紅である。「食事のあとホテルへ行き、ベッドインをするかどうか」という選択を迫られたが、桃瀬の決断は早かった。もとより、三度目の正直というたとえを実感している。
「あんなにステキなひとが、こんなに大事にしてくれているのに、その気持ちにこたえなきゃ、きらわれちゃう……。こんなわたしだけど、ずっと好きでいてもらえたら……、それだけで……しあわせすぎる……」
ホテルに行くときめた桃瀬は、贈物の口紅をぬって席にもどった。石和は、言外にしめされた決心を読み取り、いつものおだやかな目で笑った。
食事のあと、車を三十分ほど走らせた石和は、地上十二階建てのシティホテルへ到着した。そこは非日常の空間などではなく、多くのスタッフが働く宿泊施設で、大浴場や売店、プールや美容院なども設置されている。予約した部屋は、十一階のツインルームだった。大きな窓からの眺望は、桃瀬が暮らす町の夜景を見渡せた。
石和はあえてダブルベットを指定せず、フロントスタッフと気さくにやりとりをして、ルームキーを受けとる。部屋にはいるなりベッドへ誘導された桃瀬は、「お、お願い、ゆっくりしてぇ」と本音をもらした。石和は「なるべくそうするよ」とこたえておき、最終目的を遂げる覚悟を確かめあった。
「理乃ちゃん」
「は、はい……」
「ぼくを信じてくれて、ありがとう。とてもうれしいよ」
桃瀬の表情は不安そうに見えたが、石和の求める躰は熱くなっていた。
✦つづく