※修正予定あり【ぺちゃんこ地味系OLだけど水曜日の夜はびしょぬれ〜イケおじの溺愛がとまらない!?〜】

ゴールイン


 桃瀬は、特有の体質が習慣化していた。水曜日になると、朝からそわそわと気分が落ちつかず、夜になると下半身がうずいて、なぜかぬれてしまう。石和(いさわ)とのベッドインは週末になることが多かったが、セブンスターで働くバーテンダー姿を思い浮かべると、かならずしっとりするのが悩ましい……。

 アパートのトイレで生理現象を悲観的にとらえて(なげ)く桃瀬だが、石和との将来を前向きにとらえ、日常生活は充実していた。桃瀬側の両親と面識のない石和だが、姉の理加子にはデートを目撃されている。結婚を考えるふたりは年の差は大きいが、石和の能力が優秀すぎるため、反対される心配はないと思われた。……うちのお父さんとお母さん、石和さんを見たら、びっくりするだろうなぁ。イケおじでスパダリだもん。いろんな意味で。

 実際、のちに桃瀬の父は、「あんな立派な男が、よくうちの田舎娘を選んでくれたもんだ」と溜め息を吐く。母は「あんた、騙されてないでしょうね?」と、うたがう始末だ。姉の理加子いわく、「どんな手を使ったのよ。色仕掛けが通用する相手には見えないし、ぺったんこな理乃じゃ、まず無理だもんねぇ。見た目じゃなく、性格と中身で選ばれたのね」と笑い話にされた(ちなみに姉は巨乳)。

 いっぽう石和の両親は、「おまえたちの好きにしなさい」と、淡白な反応だった。父の貴士(たかし)は気むずかしい性格だが、石和の母は、「この(とし)まで独身だった貴之(たかゆき)に、ようやくお嫁さんがきてくれたのね」と(ほが)らかだった。和装の似合う美人である。恋愛から交際に発展し、結婚する男女の多くは、永遠の愛を誓って生涯を共にする。石和と出逢えた桃瀬の未来は明るいはずだ。


 トイレからリビングにもどると、携帯電話が鳴りひびいた。相手の名前が点滅する画面を見た桃瀬は、一瞬ドキッとした。以前、セブンスターでヘロヘロに酔ったとき、沙由里(さゆり)と番号を交換した(らしい)が、会話内容まではよく覚えていなかった。「もしもし」控えめな声で応答すると、沙由里の高い声がきこえた。


『こんばんは、桃瀬さん』
「こ、こんばんは……(番号は交換してたけど、沙由里さんが電話してきたの初めてだ。なんの用事だろう?)」
『こんどの日曜日、ダブルデートしない?』
「ダブル……ですか?」
『ええ。あなたとわたし、石和さん(マイスター)直樹(なおき)くんの四人でどうかしら? それとも、なにか予定ある?』
「とくにありません……」
『じゃあ、きまりね。石和さんには直樹くんから伝えてあるから、待ち合わせはY駅の広場よ。朝九時に集合して出発。よろしくね、バーイ』


 沙由里は手短に通話を終えたが、ふたたび携帯電話が鳴りひびいた。こんどは石和からである。階下より電話をかけているため、なんとなく歯がゆく感じた。「もしもし」『理乃ちゃん、寝てた?』「いえ、まだ起きてます」時刻は二十二時である。そろそろ寝室のベッドでリラックスしようと思っていたが、沙由里や石和の声をきくと、心臓がドキドキして目が醒めた。『日曜の件だけど、だいじょうぶかい?』「はい、だいじょうぶです。……わたし、直樹くんと沙由里さんがお付き合いしてただなんて、知りませんでした」『ぼくも、ついさっき本人の口から聞いたよ。彼は、いちどふられているけれど、タフな青年だね』「え? それじゃ、あのふたりは……」『彼女にとって直樹くんは、ボーイフレンドのような存在かもしれない』……だとすれば、(あくつ)は試されているのだろう。沙由里をエスコートする機会に恵まれた以上、男として気の抜けない一日になる。

『当日は、ぼくが車をだすことになっているから、いっしょに行こう』

「はい、よろしくお願いします」

 通話を終えようとする桃瀬に、石和が具合を確認してきた。先週末のベッドインでは、避妊具をつけずに抱いてほしいと頼まれた石和は、妊娠の可能性を承知の上で、桃瀬の体内領域へ子胤をそそいでいる。より深くつながって安心感を得たかった桃瀬は、このまま子どもを授かってもいいとさえ思った。女性に対して生殖行為をした石和は、事後経過を見まもる必要がある。

 妊娠中のマタニティ婚など、子どもと思い出を残せる出産後の挙式方法もあるが、事前に準備することは意外と多い。体調を問われて「とくに、変わりません」と答える桃瀬に、『そう、おやすみ』といって笑みを浮かべる石和は、婚姻届を見つめた。市役所の窓口へ提出する曜日は、心のなかできめてある。あとは、桃瀬に伝えるのみだ。いつか、最高の記念日となることを願って──。


✦おしまい
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