貴方が結ぶ二重螺旋  ~鋼鉄の敏腕弁護士は遺伝子レベルで彼女を愛す~
「天使が……天使が連れていかれた」
「はあ?」
 京司はいぶかしげに迅を見る。

「母親に連れていかれたんだ。きっとひどい目に遭う」
「母親なら大丈夫だろ」
 京司は迅にそう答えた。良い父母に恵まれた京司には、親が子どもをひどいめに合わせるという感覚がわからない。

 迅もまた先ほどまではそうだった。が、現れた女性は世の母親に共通する慈愛があるようにはとうてい見えなかった。実際、迅の目の前で彼女を殴っている。

 両親と合流した迅はそのことを伝えた。
 両親は顔をしかめてそれを聞いたのち、「対処する」と答えた。

 その約束が果たされてはいないだろうことは大人になった迅は察していた。
 あの頃の両親には「注意したら母親は反省して今後はちゃんとすると言っていた」と伝えられたが、子どもだった迅を安心させる嘘だったのだろうと思う。

 あのときの少女が誰だったのか、迅にはわからないままだ。
 今頃どうしているだろうか。

 その後は父のパーティーについていくたびに彼女を探したが、二度と会うことはなかった。
 女の子が誰だったのかを尋ねたが、教えてもらえなかった。知ったところでどうしようもないという配慮だったのか、両親も把握していなかったのかはわからない。

 大人になって再度聞いたときには、両親はそのときの出来事すら覚えていなかった。
 今でも、思い出しては心配になり、手が空いたときには探してもいる。

「弁護士にはなったが……約束を果たしているとは言い難いな」
 迅は苦々しくつぶやく。
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