貴方が結ぶ二重螺旋  ~鋼鉄の敏腕弁護士は遺伝子レベルで彼女を愛す~
 車内に流れる音楽は恋人に会えて幸せだと歌っているが、迅の中には空虚が満ちる。
 日本有数の弁護士事務所で働いているが、対企業の案件ばかりを任され、子供の頃に彼女と約束した「悪い奴をやっつける」弁護士にはなれていない。ここで経験を積んだのち、将来はミソラのインハウスローヤーになることも決まっている。ますます悪をくじく弁護士からは遠ざかるだろう。

 これいでいいのか、と迷うときがある。
 尊敬する父の会社の役に立ちたい気持ちもあるが、弱者を助けたい気持ちがある。

 だが、金も持たない弱者たちは弁護士を雇うこともなく泣き寝入りをするケースが多い。それでよいとは思えないし、いつかそれを解消できる仕組みを作りたいとは思うが、良いアイディアも浮かばす、踏み出すことができずにいる。

 弁護士として働く中で相手に思考を読み取らせないように無表情を心がけ、いつしか人前では表情に乏しくなっていた。
 信号が変わる。
「ある意味で忘れられない女性(ひと)ではあるな」
 ふっと自嘲のような笑みをこぼし、彼はアクセルを踏み込んだ。

***

 お見合いの前日のことだった。
「あんた、私の代わりにお見合いに行ってきて」
 ららかの突然の言葉に、百合花は目を丸くした。
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