君を思うと、胸がぎゅっと痛くて
俺がいちばん愛するお姫様は、いつも、どこかに行ってしまうような気がした。
約束でどれだけ強く結ばれても、離れてしまう。
0時には魔法がとけて、知らないうちに遠くに連れていかれてしまう。
君が美しければ美しいほど、惹かれれば惹かれるほど、その儚さが眩しくて苦しかった。

なぁ、さゆ。
俺の前で、後どのくらい笑ってくれる?
後どのくらい時間が残ってる?

「生徒会を辞めます」

さゆがそう言い残して、書類を置いて帰った日。
俺はアキ先生のいる病院に行った。
きっと病気さえ治れば、さゆは生徒会に戻ってくれるとそう信じていたから。

「ーー定期連絡です。対象者さゆは問題なし。規定ルートβせかを順調に進んでいます。彼女の約束の人間である奏も観察続行中。8/16に交通事故による心停止、そこからさゆへ心臓移植を俺が執刀しますーー」

ガタンッ。
俺はカバンを床に落として、アキ先生はすぐに気がついた。
耳にかけていたイヤホンみたいなものをゆっくりと外した。

「今の、きいたか?」

「はい」

「そう。信じるのか?」

「はい」

俺は泣いた。俺がさゆにできることがあるんだ。

「さゆは生きられる。お前の心臓があればこの先もずっと」

「良かった。俺はそのために生まれてきたんです。本当にっ良かった……」

最初から知っていた。
俺は未来から来たアキ先生のことも、さゆが悩んでることも、俺の命がさゆの未来への鍵だということも。知っていて黙ってた。

さゆを愛してるから。

「さゆのことを一生、よろしくお願いします」

「ああ、任されたよ」

たとえこの世界では俺の恋は実らなくても、君の胸の中で俺の初恋はずっと震えている。

きっと恋で胸がぎゅっと痛んでいる音がするんだ。
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