Music of Frontier
どんなに帰りたくなくても、授業が終わり、下校時刻になれば、否が応でも寮に帰らなければならない。

俺はこの日も、溜め息混じりに寮に戻った。

あぁ…嫌になる。

イーリアのところみたいに、先輩達と和気あいあい仲良く出来なくても良いから。

せめて、放っておいてくれないものか。

でもそうは行かない。何せ先輩達は、俺に嫌がらせするのが楽しくて堪らないのだから。

俺が割り振られた部屋、学生寮三階のN室。

その扉を開けると、俺を出迎えてくれたのは「お帰り」でも「お疲れ様」でもなく。

「…ちっ」

先輩の舌打ちであった。

酷いと思わないか?帰ってきたばかりの同居人に、舌打ちで出迎えるなんて。

帰ってくんなよ、って言われてるのと一緒。

俺だって帰りたくないのは山々なんだよ。

でもしょうがないじゃないか。他に帰るところなんてないんだから。

先輩の冷たい視線を受けながら、俺は気にしない振りをして部屋に入り、自分の机の上に鞄を置く。

するとそれを見た先輩達が、にやり、と嫌な笑みを浮かべるのが見えた。

…。

そっと鞄を持ち上げてみると、鞄が何やら糊を混ぜたような、ねばねばした糸を引いていた。

…糊か何か、机に塗って待機していたな?

小学生かっ!!という突っ込みを入れたいのを我慢しながら、俺は黙って鞄を無理矢理ひっぺがして、タオルで鞄を拭いた。

べとべとはかなり強力で、少し拭いただけでは全然取れなかった。

…あぁ、もう良い諦めよう。

いちいち相手にするのが面倒臭い。

おまけに。

トラップを仕掛けていたのは机だけではなかったらしく。

ベッドに敷かれていた毛布を引っ張り上げると、その下から鉛筆の削りクズが小さな山を作っていた。

…。

このささやかで、でも地味に腹の立つ嫌がらせ。

小学生でももう少し工夫を凝らした嫌がらせをするだろうに。

今時の小学生は頭が良いって言うし。

第二帝国騎士官学校の生徒ともあろう者が。こんな幼稚臭い嫌がらせをするなんて。情けなくないのか?

いや…うちの学校だからこそ、こんなに稚拙な手段を取るのだろう。

帝国騎士官学校に入る生徒は、幼い頃から勉強と剣の稽古しかしてこなかった者が多いから。

人のいじめ方なんて、知らないのだ。

だからこんな幼稚臭い嫌がらせをする。

「…何だよ。怒ったか?」

俺に嫌がらせをする筆頭格、N室の室長である三年生の先輩が、にやにやしながら俺に向かって尋ねた。

…横っ面ぶん殴ってやりたい。

「…別に」

殴りたい衝動を堪えながら、俺は平静を装って答えた。
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