Music of Frontier
「…」

「むぐむぐ。もぐもぐ…。はむ。むぐむぐ…」

俺は、しばし彼のことを呆然と眺めていた。

随分と身なりが良く、子供の目から見ても分かるほど上等な服を着て、きっと良いところの坊っちゃんなんだろうと思われるが。

…一心不乱に、食っとる。

しかもデザートばかり。

ハムスターみたいに、お行儀悪く頬っぺたを膨らませて。

次々とデザートを口の中に押し込み、物凄い勢いで咀嚼していた。

「もぐ。むぐむぐ。ごくんっ…。はぁ~、幸せ」

緩みきった幸せそうな顔で、彼はうっとりと呟いていた。

そして、束の間の休息を取ったかと思うと、またしてもチョコケーキをフォークでぶっ刺し、口の中に放り込んでいた。

「…」

俺は呆然と見つめていたのだが、彼は全く気づく様子がなく。

彼が俺に気づいたのは、ミニサイズのチョコケーキを三つ綺麗に平らげ、次にチョコプリンを頬張ったときだった。

「…ん?」

「…」

口の中にチョコプリンを詰めたまま、無言で見つめ合うこと、たっぷり10秒。

当然ながら俺は呆然としていたが、彼は何を思ったか、デザートが山盛りになった大皿を手に取り、

「…食べます?」

と聞いた。

「いや…要らない…」

食欲がないとか、そういう次元の話ではない。

お前は何者だ。

「あら…それは残念です…。チョコプリン、こんなに美味しいのに…」

何で残念そうなのか。

すると今度は、何を思ったか、

「じゃあシュークリームはいかが?」

と言って、今度は皿の上にてんこ盛りのシュークリームを指差した。

「…いや、要らない…」

「要らない…?プリンもシュークリームも要らないなんて…。あなた…何なんですか…」

「…」

何なんですか…って、言われても。

そっちこそ何なんだ。

見たところ…めちゃくちゃお菓子が好きならしいが…。

俺はこの人に…一体何て言えば良いんだ?

むしろ何も言わず…すぐにこの場を立ち去った方が良いのかもしれない。

と思ったが、すぐここから逃げるのも何だか失礼な気がするので。

「…お菓子、好きなの?」

とりあえず、会話のきっかけのつもりで話しかけてみた。

すると。

「はい!大好きです」

目をきらきらさせて、元気の良い返事をしてくれた。

…まぁ、その食べっぷりで、「甘いものキライです」なんて言われたら逆にびっくりするもんな。

「甘いもの食べると幸せになりますよね。どんなに疲れてるときも気分が重いときも、お砂糖とクリームの甘さが、傷ついた心を優しく包み込む…。お菓子にはその力があるんですよ!」

「…」

「叶うことなら、ホイップクリームとカスタードクリームのプールを泳ぎたい。それと、プリンをポリバケツで食べたい!分かります?この気持ち。あっ、それとパフェ。いちごをたっぷり乗せたチョコパフェを風呂桶で食べたい!」

…お腹、壊すんじゃね?

ほくほくとスイーツについて語るルトリアを、俺はドン引きしながら眺めていた。
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