Music of Frontier
嬉しそうにスイーツについて語るのを聞いていたら、頭が痛くなりそうだったので。

「あの…ちょっと落ち着いてくれないか」

「はい?」

はい?じゃなくて。

そんな嬉しそうに語られても、俺はスイーツ男子じゃないから、いまいち気持ちが分からないんだよ。

カスタードクリームのプールなんて、身体べたべたになりそう…としか思わないし。

「君がスイーツ好きなのは分かったから…頼むから、ちょっと落ち着いてくれ」

「俺は落ち着いてますけど…」

何処が?

とりあえずそのフォークを置いてくれ。

ケーキぱくぱく食べながら落ち着いてるとか言われても。

「あなた、もうお食事済ませました?デザート食べません?」

「…ごめん。食事はしてないけど…デザートは要らない」

「え?何で?」

何でって言われても…。

「実は…その、食欲があんまり…」

「食欲がない?そうなんですか。分かりますよ。この会場、随分と騒がしいですもんね。俺も今日はいまいち食欲がなくて…」

え、それで?

さっきから大皿に山盛りのデザート食ってるよね?

さっきまでの…自慢話大会してる少年達とは大違いだ。

「君は…何処の家から来たんだ?」

「ふぇ?」

お家自慢と、下らない見栄の張り合いをしている連中よりは。

怒濤のようにスイーツを食べまくるこの少年の方が、まだ仲良くなれる気がする。

そう思って、俺は彼に声をかけた。

すると、彼は事もなげにこう答えた。

「俺はマグノリア家の長男です。ルトリア・レキナ・マグノリア。宜しくお願いします」

「…え…」

…マグノリア?

マグノリア家の長男って言った?今。

まさか俺は、パーティーの主催者の息子に声をかけていたとは。

「ほ、本当に…?マグノリア家の…?」

「えぇ。一応」

こんな…口の端に生クリームくっつけたような人が?

「そ、それは…その、失礼しました」

年は同じくらいだけど、身分は大違いだ。軽々しく口を利いて良い相手ではない。

俺は慌てて頭を下げ、敬語で謝った。

しかし、彼は…ルトリアは、困ったような顔をした。

「別に良いですよ、気にしなくても…。さっきまでみたいに、普通に話してください」

「普通に…って…。でも、俺は…」

さっきそこにいた少年達のような、金持ちの貴族ではない。

多分この会場に招かれた客の中で、一番身分の低い家の子供なのだ。

主催者のご子息様に、タメ口利いて良い立場じゃない。

「良いから、気にしないでください。あなたいくつですか?年は」

「…年は…9歳…だけど」

「あ、ほら。俺と一緒。同い年じゃないですか。気を遣わずに話してください」

気を遣うなと言われても。それがむしろ気を遣うって言うか。

大体そっちは敬語じゃないか。

それなのに身分の低い俺が敬語を使わないなんて。

「でも、その…俺は…」

エルフリィ家の息子で…しかも母の付き添いで来ただけだから、と言おうとしたのに。

「良いんですって。俺は人に喋るとき敬語がデフォなキャラだから良いですけど、他の人にはあまりよそよそしくされたくないんです。普通に話してくださいよ。ね?」

「…」

…ここまでタメ口を勧められてしまうと、断るのも失礼な気がしてきた。

…もう良い。俺は断ろうとしたんだからな。強要してきたのはルトリアの方。

心の中でそう決めつけて、俺は仕方なくタメ口で話すことにした。

「…分かった。普通に話すよ」

「はい。ありがとうございます」

何が「ありがとうございます」なんだか。
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