Music of Frontier
さて、改めて。

大皿二枚ぶんの山盛りスイーツを、綺麗に平らげて。

ルトリアは満足そうに、フォークを置いた。

…よく食べられたな。あんなに。

俺なら、どんなに腹ぺこで食べたとしても、一枚ぶんが精一杯だ。

「は~、美味しかった…。あなたは食べないんですか?」

「…俺は要らないって」

「そうですか…。あなた変わってますね…」

「…」

何だろう。何だか…お前にだけは言われたくねぇ!って思った。

世の中の全ての男がスイーツ男子だと思ったら、大きな間違いだぞ。

すると、ルトリアは。

俺が一番聞いて欲しくなかったことを聞いてきた。

「…ん?そういえば、俺は名乗りましたが、あなたはまだですよね。あなたはどちらから?」

「…」

それは…。

…言いたくないことだったけど、やっぱり言わない訳にはいかないよな。

俺が名乗ったら、ルトリアの態度が変わってしまうのではないかと怖かった。

さっきの少年少女みたいに、俺を上から目線で馬鹿にするのかと思うと。

でも、向こうが名乗ってくれたのに、俺だけ黙っているなんて失礼だ。

だから、俺は観念して、名乗ることにした。

「…ルクシー・リア・エルフリィだ」

今ばかりは、自分の名前が少し恥ずかしかった。

恥じるべきことではないと分かっているのに。

なんだ、エルフリィ家の人間か。と鼻で笑われることも覚悟していた。

しかし、ルトリアは。

「そうだったんですか。ルクシーさん。ルクシーって呼んで良いですか?」

「え?…う、うん…」

「じゃあ、ルクシー。今日はよく来てくれましたね。わざわざありがとうございます」

ホストの務めとばかりに、にこりと笑ってそう言った。

…見たところ、馬鹿にする様子はないけど…。

内心では、どう思っているのか分からない。

「つまんないでしょ?こんなパーティー。正直俺もつまんないですよ」

「…え」

ちょっと。それ、ホスト側は絶対言っちゃいけない言葉。

「パーティーなんて、スイーツを食べられる以外に良いことないですよねぇ。下らないお世辞言い合ったり、見栄の張り合いしたり…。あ、ほら、あそこにいるあの人達。あの人達と喋りました?」

ルトリアは、向こうで自慢大会してる少年少女のグループを指差した。

喋りました?って…。

「…さっきまで、一緒にいたよ」

「つまらない話してたでしょ?」

「…してたな」

ここは嘘でも、「そんなことはない」と言った方が良かったのだろうが。

つい、本音が出てしまった。

「でしょう?俺、ああいうの嫌いなんですよ。家自慢って、虚しいと思いません?生まれた家しか自慢することがないみたいで。自分の努力の結果を自慢するならともかく、何の努力もせず、生まれたときから与えられていたものを自慢げに誇るなんて…」

「…確かに」

俺が思っていたことを、ずばりと言ってくれた。

俺が言ったら、それは貧乏人の負け惜しみにしか聞こえないけど。

ルトリアが言うと、意味合いが違ってくる。

「俺はああはなりたくないですね。だからここで、一人でスイーツ貪ってたんです。その方が有意義だと思いません?」

「…思う。凄く思う」

「ですよね~。うふふ。あなたとは気が合いますね」

「そうだな」

驚いたよ。

まさか中流貴族のマグノリア家出身者が、俺みたいな下流貴族の人間と話が合うなんて。

そんなことってあるんだな。
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