Music of Frontier
「どうも、こんにちは。お邪魔します」

「あら、いらっしゃい。初めまして。あなたがルトリアさんね?」

「はい。ルトリア・レキナ・マグノリアです」

俺が声をかけてから、たっぷり三週間。

ルトリアは、エルフリィ家の屋敷に訪れていた。

後で聞いたところによると、この三週間は、ルトリアが自分の親を説得するのに費やした期間だそうだ。

行く、行かせない、の押し問答を三週間も続け。

結局「そこまで言うなら好きにしろ」と、見事両親を根負けさせ、勝利を収めて今日を迎えたと。

そういうことだったらしい。

そうと知っていれば、無理して来させなかったものを。

ともあれ、ルトリアは我が家に遊びに来てくれた。

俺も、俺の母も、これには諸手をあげて喜んだ。

特に母は、いつになく嬉しそうだった。

「今日は来てくれてどうもありがとう。それに…ルクシーと仲良くしてくれて、本当にありがとうね」

「いいえ、こちらこそ。ルクシーには、いつもお世話になって…」

「あなたが甘いもの好きだってルクシーに聞いたから、今日はケーキを焼いて準備してるのよ。後で持っていくわね」

「えっ、ケーキ?」

…さっきまで大人な挨拶をしてたのに、ケーキと聞いてルトリアはじゅるり、と涎を垂らしていた。

…おい。理性を保て、理性を。ケーキに釣られるな。

「うふふ。それじゃ、どうぞ入って。ルクシーの部屋で良いわよね?」

「うん。俺が連れてくよ」

「お邪魔します」

俺はルトリアを連れて、自分の部屋に案内した。

客人が来るということで、家の中は隅々まで掃除してあるが。

…ルトリアがエルフリィ家の寂れた屋敷を見て、どんな感想を抱いたかについては、俺も憶測するしかない。

マグノリア家の立派な屋敷と比べたら、エルフリィ家はボロアパートも同然だろう。

ルトリアは口には出さなかったが、心の中ではどう思っていたのか…。

あまり、気にしてはいないだろうと思うけど…。
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