君のもとへ走る
状況が変わったのはついさっき。
君が放課後に呼び出されたとき。
それでやっと自分の慢心に気がついた。引き留めなくてはならないと思った。行かせてしまっては駄目だ、と。今更になってそんなことを思うのはずるいだろうか。それでもギリギリで引き留められるのは、君に一番近いところにいる特権だろう。その特権を行使しない理由はない。
しかし、少し見ていない間に君はいなくなっていた。愕然とした。焦りがぐわっと襲いかかってきた。気づけば何も考えず教室を飛び出していた。
そして走った。
どこにいるかも分からなかった。
それでも追いつこうとして走った。
走って走って走って、それでも追いつけなかった。 どこに呼ばれたのか聞いておけばよかった。そんな大事なことが抜けていた自分に苛立ちが募る。今はその苛立ちをエネルギーにして走り続けるしかない。
どこにいるか分からない君に追いつこうとして走った。ひたすら走った。日々の運動不足が祟ってか、足がもつれて転びかけたところで、やっと君の姿を捉えた。君はこちらに気づきそうにない。
「まっ…!」
声を掛けようとするも、息が切れて上手く声にならなかった。立ち止まって息を整える。今までにないほど心臓が痛い。歩いていく君と距離が離れすぎないよう、すぐに歩き始めた。