佐藤先輩と私(佐藤)が出会ったら
部活後



TシャツやロンTの胸と背中に名字が書かれた布が縫い付けてある1年生、その子達の数人が磯貝さんが持つ大量のボトルをいくつか持ってくれている姿があった。



"1年は磯貝を、2年は佐藤を手伝うように”と、さっきキャプテンが言ってくれていたから。



大量のゼッケンを洗濯機に放り投げていく私の所に同じ学年の部員達も集めたゼッケンを次々と持ってきてくれ、「次何すれば良い?」と聞いてくれた。



それには普通に答える。



「自主練。」



「「「は?」」」



部員達が聞き返してきたのでもう1度言う。



「土屋先生がしばらく体育館を開けてくれてるよね?
自主練してきたら?」



「いや・・・でも今日もみっちりしごかれたし。」



「俺も今日は結構ボール触れた方だし。」



「俺なんて今日もゲームに出させて貰えなさそうというのを察して1年に混じって外周しまくってきたし。」



それぞれの返事を聞いた後に洗濯機に洗剤を投入してから蓋を閉めた。



「自分達が自主練をしなくても大丈夫だと思うならやらなくて良いんじゃない?」



そう言った後に体育館を指差した。



「昨日も残ってたのは3年の先輩達ばっかりだったけど、でも2年生も4人残ってたよ。
ゲームによく出させて貰ってる子2人とたまに出てる子1人、もう1人は土屋先生から外周してくるように言われてるバスケ未経験だった子。」



体育館の扉を閉めていても響いてくるボールの音、バッシュの音を聞きながら自然と笑顔になる。



「土屋先生はよく見てくれる先生だよね。
朝練にも昼練にもよく顔を出して練習の相手までしてくれるし、夜に残った部員達にも必ずアドバイスをしてくれてる。」



またこの部員達に視線を戻してから口を開く。



今日も佐藤先輩の彼女が更衣室の近くで待っているのを視界に入れながら。



「強くなりたいなら努力をしなくちゃいけない。
上には上がいるし、下だと思っていた人が明日には上になってるかもしれない。」



無意識に両手をギュッと握る。



佐藤先輩と同じガードのポジションの部員だけを見詰め、口を開いた。



「小さいなら誰よりも努力をしないと。
誰よりも走れて誰よりも視野を広く持って、誰よりもドリブルもパスも上手くならないと。
自分よりも体格やセンスに恵まれた人達の間がフッと空いた瞬間、その時に小さい自分でもゴールを目指さないと。」



そう言い終わった時・・・



体育館の扉が開き、佐藤先輩が出てきた。



佐藤先輩はいつものように私にニコッと笑い掛けてきて、部活中には1度も目を合わせられなかった私が口を開いた。



「帰るんですか?」



「その予定だったけどね〜・・・・・。
今日は朝練も出来なかったからもっとやっていきたくて。」



その言葉に頷いた後、目の前にいる部員達をまた見た。



「部活中の佐藤先輩はセンスの塊みたいな人に見えちゃうかもしれないけど、あれは努力してる結果なんだよ。
”私達"みたいなチビがこの競技をやるなら、此処にいる誰よりも努力をしないと。」



思わず”私達"と言ってしまったことに気付き、もうプレーヤーではない私がそう言ってしまったことに”あっ"と思ったけれど、部員達は誰も何も言わず・・・



お互い顔を見合わせ・・・



「じゃあ俺、少し残ってみようかな。」



「俺も、ちょっとだけでも・・・。」



「俺、親に一応連絡してくるわ・・・。」



「お前の所のママは心配症だからな!!」



「うるせーよ!!!ママとか言うなよ!!!」



ガヤガヤと笑いながら、それぞれがまた歩き出した。



そんな皆の後ろ姿には自然と笑顔になった。



そしたら・・・



「”私達"、ね。」



佐藤先輩だけがそのことを突っ込んできた。



それには慌てて佐藤先輩の方をまた見る。



「あれは違くて・・・っ、いつも言ってたことなので、つい・・・っ」



「いつも俺ら言ってたよね、”うちらはチビだから〜"って。」



「そうですそうです!!
佐藤先輩ともよく言ってましたし、女バスのガードの子達ともよく言ってたから・・・っっ」



「別に虐めてるわけじゃないよ。
でも晶の口からまだ”私達"って出るんだなって思っただけ。」



嬉しそう笑う佐藤先輩が、左手を私の顔の方に伸ばしてきた。



いつものように、伸ばしてきて・・・。



そして・・・



チョンッ…………………と、人差し指で私の右側の髪の毛を触ってきた。



「はねてる。」



右側の髪の毛には少しクセがあるのか、乾いている時は大丈夫なのに濡れるとピョンッとはねてしまう私の髪の毛。



それを昔から佐藤先輩はこうやって触ってきて、高校でも体育館の男女の交代の時にたまに触ってきていて・・・。



いつもと同じやり取りなのに、今日は何でか凄く恥ずかしくて・・・。



”あ、変な妄想しちゃったからだ・・・っ"



佐藤先輩が私にエッチなことをしてくれる妄想までしてしまっていたせいだと気付き、妄想の中の佐藤先輩の姿と重なってしまったのだとやっと気付く。



これ以上佐藤先輩にピョンッとされないよう、自分の手でピョンッをおさえながら下を向く。



自分でも分かるくらいに顔が赤いと・・・



耳まで赤いと分かっているから、佐藤先輩の顔から逃げるように下を向いた。



「今日は変な汗をかいちゃったから・・・。」



「ああ、腰にテーピングしようとした時?」



「はい・・・。
すみません、私は一人っ子だし・・・バスケしかしてこなかったから、男子の身体とか見る機会が全然なくて・・・。」



「いや、謝ることじゃないから。
土屋先生もやってくれるって言ってくれたんだし、俺からもさっき土屋先生にお礼言っておいたからね。」



「ありがとうございます・・・。」



「うん。」



ピョンッをおさえたまま、下を向いたまま、全然引いていかない熱を感じ、何だか凄く苦しくなった。



凄く凄く苦しくなりながら、言った。



「彼女さん、更衣室の近くで待ってますよ。
早く行ってあげてください。」



最後は泣きそうになってしまった自分には驚く。



だって、今までだって佐藤先輩には何人も彼女がいて。



でも、知らなかった・・・。



部活の後にこうやって一緒に帰っていたことを・・・。



佐藤先輩はバスケだけではなくなっていたことを・・・。



彼女とエッチまでしていたことを・・・。



「あ、本当だ・・・。
店とか教室で待っておくように毎回言ってるんだけどな・・・。
何で聞いてくれないんだろう・・・。
6歳上の姉ちゃんの裸には慣れてるから女子の裸もマジで見慣れてるくらいだけど、うちの姉ちゃんはああいう姉ちゃんだから、女子が考えることの参考には全然なんないんだよね。」



溜め息を吐いた佐藤先輩が小さく呟いた。



「晶にだから言うけどさ、ここまで長続きしてるのが初めてだから今回初めて知ったんだけど、俺って女子と付き合うのが結構面倒だと思う嫌な男だったらしい。
結婚出来なかったらどうしよう。」



それにはパッと顔を上げると、彼女の方を見ている佐藤先輩の横顔が見えた。



その顔は確かに面倒そうな顔で笑っていて・・・。



「あんな姉ちゃんとでも楽しいとも思えるし、晶となんて何年一緒にいても楽しいのに、やっぱり他人の女子とか難しいよね。
告白してくれて嬉しかったし性格も良さそうな子だから今回も付き合ったけど、俺にはバスケと家族で今のところキャパオーバーな男だったのかも。」



そんなことを言った佐藤先輩がまたいつもの笑顔に戻り、私のことを見下ろした。



「”一人っ子"とか言わないでよ!
俺も姉ちゃんもいるじゃん!!
昨日なんてヒマリとのデート中に買い物中の姉ちゃんに電話して、晶の帰り道が心配だから一緒に帰るようにお願いまでしたんだからね!!」



「そうだったんですか・・・?」



「姉ちゃん、全然充電してなくて晶に連絡しようとした直前で充電が切れたらしいけど、無事に会えたみたいでマジで良かった。
今日は俺が一緒に帰るから、着替え終わったら声掛けて!!」



「え・・・・・・、あ、私は全然大丈夫なので気にしないでください。
制服じゃなくてジャージで帰るし、男子にしか見えないと思うし。」



「男の腹と背中を見てあんなに真っ赤になる男なんかいないから!!」



佐藤先輩が大きく笑い、彼女の方に走りながら私のことを見てきた。



「帰る時に声掛けて!!
俺がいるから制服でもジャージでもどっちでも良いから!!!」



彼女とは一緒に帰らないらしい佐藤先輩が、妹的な存在である私とは一緒に帰ってくれるらしい・・・。



”嬉しい・・・・・。"



”いや、やっぱりそんなに嬉しくはないかもしれない・・・。"



複雑な気持ちになりながら、ピョンッから手を離した。



”彼女にはどうやって触るんだろう・・・。"



”ヒマリさんは佐藤先輩の裸を見たのかな・・・。"



他の部員に比べたらかなりの細身ではあるけど、中学の頃よりもずっと大きくなった佐藤先輩が彼女に平謝りをしているであろう姿を少し遠くから眺める。



佐藤先輩の彼女が途中でチラッと私のことを見てきたので、それにはペコッとお辞儀をしてからまたマネージャーの仕事へと戻った。



”なかなか筋肉がつかなくてヒョロヒョロなのが恥ずかしい。"



佐藤先輩がそんなことを言うようになったのかいつからだったか・・・。



「その頃にはもう、彼女とエッチしてたのかな・・・。」



妹的な存在なはずの私でも、佐藤先輩の身体なんてチラッとも見たことはなかった。

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