その手で触れて、そして覚えて。
「あ、もう21時になるね。わたし、そろそろ帰るわ!」
そう言って残りのビールを一気に飲み干す紗和。
紗和は既婚者で子どもも2人いて、今日は旦那さんに子どもを預けて歓迎会に来ていた為、時間に制限があるのだ。
「そうだね、そろそろ帰ってあげた方がいいもんね。」
「下の子がまだわたしじゃないと、なかなか寝付かなくてさぁ。」
「お母さん大変だ。」
「もう少し大きくなったら、楽になるんだけどね〜。じゃあ、お先に!」
「うん!お疲れ様!今日はありがとね!旦那さんによろしく!」
紗和は手を振ると、急いで帰って行った。
お母さんかぁ、、、
わたしも結婚生活が上手くいってたら、お母さんになってたのかなぁ。
何て、もうそんなこと考えても仕方ない。
もうわたしには、縁のないことなんだから。
そしてわたしは、ちょっと疲れてしまった為、席を外し、お手洗い近くの狭い廊下で休憩することにした。
大勢が苦手でレモンサワー1杯だけでも酔ってしまうなんて、何と情けない36歳の主任なんだろ。
そう思いながら壁にもたれ掛かっていると、誰かが近付いて来る気配がして、ふとそっちを向いた。
顔を向けたそこに立っていたのは、街風くんだった。