俺様同期の執着愛
 とりあえず、どうにか落ち着いてくれた柚葵とふたりで、料理を前にスパークリングワインで乾杯した。
 ローストビーフとフライドチキンを食べた柚葵は子どもみたいに目を輝かせて声を上げた。

美味(うま)っ!」
「ふふっ、ありがと。この日のために頑張ったんだから」
「すげーな。俺なんか最近やっと筑前煮が作れるようになったのに」
「えっ、筑前煮!?」

 柚葵の口からさらりと発せられたセリフに、私は思わずワインを飲む手を止めた。

「ああ。干しシイタケで出汁を取ってな。あれ、時間がかかるんだなー」
「出汁を取るの?」
「取るだろ。和食の基本だぞ」
「私は粉末使うけど……」

 柚葵は目を丸くして固まった。
 そしてぼそりと言う。

「まずい。俺が料理したことねーの、バレちゃったじゃん。本に書いてある通りにしかできねーんだよ」

 柚葵は自分のスマホを取り出して、すっと私に見せた。
 写真フォルダには手作りと見られる料理が次々と表れる。

 天ぷら、親子丼、生姜焼き、鯖の味噌煮、玉子焼き、チャーハン、麻婆豆腐、豚の角煮とか。え、角煮とか!

「これ、柚葵が作ったの?」
「あんま見なくていいよ。下手くそだから」
「うそ……」
「仕方ないだろ。初心者なんだよ。でも次はこれやりたい」

 柚葵が見せてきたレシピはSNSで人気のふわとろオムライスだ。

「俺、お前と会えないあいだ暇すぎてさ。やってみると面白いもんだなあ。美味いし腹いっぱいになるし、金もそんなかかんねーし、メリットしかないじゃん」

 会わないうちに柚葵が料理男子に覚醒していた!

< 182 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop