敏腕システムエンジニアの優しすぎる独占欲〜誰にでも優しい彼が、私にだけ甘すぎる〜
「あ、悪い。電話だ」

調理中、藤堂さんはそう言ってキッチンを出ていった。
その背中を見送りながら、私は一人で肉じゃがの準備を進める。

しばらくすると、奥の部屋からガタガタと何かが崩れるような音が聞こえた。

驚くほどの大きな音に手を止めて耳を澄ますと、彼の部屋から聞き慣れない会話が漏れてくる。

「おかしいな……どこかにまとめてあるはずなんだが」
「そんな昔の資料、すぐ出てくるわけないだろ?」

普段から冷静な彼には珍しく、少し焦ったような声。それが妙に気になって、私は戸惑いながらも彼の書斎へ近づいた。

――こんな藤堂さんの声、聞いたことがない……。

再び大きな音が響き、思い切ってドアをノックした。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

返事の代わりに聞こえたのは「もう、最悪だ……」という落胆した声だった。
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