しゃべりたかった。

5

有紗が小学校に入学して早1ヶ月。
 有紗は毎日学校へ行けている。支援級にお友だちもできたみたいで、毎日楽しそう。
 そんな有紗を見て、わたしはほっとした。
 けど、ある日のこと……
 わたしはお仕事で遠くへ行かなければならなくなり、家を離れなければならなくなった。
 有紗に言ってみると、予想外に有紗はすぐ納得してくれた。
 有紗はお父さんと待っててもらうことになり、わたしは不安がありつつも家を出た。
 有紗、夜泣かないだろうか。お風呂、だいじょうぶだろうか。お父さん、ごはん作れているだろうか。…心配事はもっともっとある。
 なぜ遠くへ行かなければいけないかというと、わたしのイラスト展示イベントで、それが遠くだからだ。
 人気になった証拠だし、嬉しいのだけど、家の不安がとれない。

 あっという間にイベントがおわり、わたしは仕事仲間とホテルに泊まっていた。
 スマホを見ていると、お父さんからLINEがきた。

 有紗、今寝たところ。泣かなかったし、成長したなあ。ぼくのごはんもおいしいって食べてくれたよ。

 LINEを見て、わたしは軽く感動してしまった。朝だってそうだけど、有紗は日々お姉さんになっているのだな。
 それは、安心や嬉しさと、寂しいものだ。
 わたしがいなくて泣いていた有紗はもういない。
 成長を感じて嬉しいことだけど、同時に寂しさもある。
 複雑な気持ちだ。LINEにメッセージとスタンプで返して、わたしはスマホを閉じた。

 ーーーーー
 朝、家へ帰ると、嬉しそうな有紗がお出迎えしてくれた。
 これは変わらないなと、ふっと笑ってしまった。

「お母さん、見て。ももちゃんから貰ったの。」
 どれどれ、と見ると、それは折り紙だった。
「へえ、折り紙か。かわいいね、よかったじゃん。」
 と言うと、有紗は満更でもなさそうに笑った。

 もうすぐ小学校では春の遠足がある。参加できないな、と思っていたけど、違うのかもしれない。
 卒園式にも入学式にも参加できたし、今の有紗ならだいじょうぶかもしれない。

 ーーーー
 今日は遠足当日。
 準備してきたものをリュックに詰めて、有紗を送りだした。

 仕事がおわり、リビングでおやつを食べていると、ドアが開いて有紗が帰ってきた。
「ただいまー!」
「おかえり。」
 有紗は荷物を片付けると、わたしと一緒におかしを食べながら、遠足の話をしてくれた。
 鬼ごっこをしたり、アスレチックで遊んだり、お弁当を食べたり…
 とにかく楽しかったみたいで、わたしは安心&嬉しかった。
 おやつを食べおわり、ごちそうさまをして、わたしはお風呂を沸かした。
 有紗はお人形で遊んでいる。
 有紗に誘われ、わたしも一緒に遊んだ。
 いつまでやるんだろう、とふと思った。
 いつかおわる時がきちゃうのだろうか。わたしがいなくても泣かなくなるみたいに。
 でも、そうやって成長していくのかな、としみじみ思った。

 夜、お布団の中でわたしはあれこれと考えていた。
 保育園に行けていなかった有紗が、ももスクールへ行けるようになって、卒園式に参加できて、入学式に参加できて、小学校へ通えて、友だちをつくれて…
 なんだか奇跡のように感じた。
 医療センターの先生に言うと、治りが早いと言われた。
 やっぱり、ももスクールに行っていたのがよかったんだろうか。
 わたしなんて大人になってもまだ完全に治ってないし…有紗は相当早いと思う。
 でも、有紗はこれから色んな人に出会って、色んなことに挑戦していく。
 有紗の場面緘黙症が完全に治ったわけでもないし…でも、きっとそのうち完全に治るだろう。
 安心するような、羨ましいような…そんな気持ち。
 わたしが支えなくても、有紗が進んでいける。自立できる。
 それは、嬉しくて安心で寂しくて悲しいものである。
 有紗はわたしの大切な我が子。だから、自分で自分の道を進んでほしいんだ。
 
 
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