好きって言ってよ ~先輩、溺愛しすぎですっ~
大学生の夏休みは信じられないくらい長い。



それからも俺は小糸ちゃんに勉強を教えたり、作品作りをしたり、課題に追われたりと充実した日を過ごしていた。



今日は久しぶりの登校日。



長い夏休み明けでなんかちょっと調子が戻らないけど、朝からいつも通り直くんたちと授業を受けてた。



「次教室どこだっけ?」

「南館の204号。加奈乃、歩きスマホやめな」

「ん~」



移動教室をする俺たち。



そのとき、スマホを見ていた加奈乃ちゃんが女の人とぶつかった。



「あっ…すみません」



その人が持っていた画材がバラバラと床に落ちる。



俺たちはそれを慌てて拾った。



「ありがとうございま…」



その人が顔を上げた。



俺はその顔を見て固まる。



待って…。



その女の人は…綾乃だった。



「風…里…?」

「綾乃…」



俺たちの空気に、直くんと加奈乃ちゃんは顔を見合わせる。



「えっと…もしかして、風里の元カノ…?」



直くんが聞いてくる。



俺は「まあ…」と気まずそうに返事。



綾乃が同じ大学にいた…。



この前のは見間違いじゃなかったんだ…。



「風里もここの学生なの…?」

「うん…。綾乃も…?」

「そうだよ…。風里…また会ったね…」



気まずい…。



っていうか会いたくなかった…。



「あ、じゃあ俺次の授業あるから…」

「待って風里!」



綾乃が俺の服の裾を持って引き留めた。



ちょっと…やめて…。



俺はその手をやんわりと外す。



「久しぶりに会えたし…あとで…話せない?」

「ごめん…、彼女のこと考えたらそれは無理だよ…」

「…」



俺は冷たく綾乃を置いていくしかなくて。



先に行く俺に、慌ててついてくる直くんたち。
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