雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
玄関のチャイム音が鳴った。悠翔さんだったらチャイムなんて鳴らさずに自分で鍵を解錠して家の中に入ってくるはず。
一体、誰だろう?と恐る恐るインターフォンをチェックする。するとそこに映っていたのは綺麗な女性だった。
どうして女性がうちに?もしかして勧誘とか?知らない人なら応じない方がいい。申し訳ないけど無視しようと思っていたら、再びチャイムが鳴った。
さすがに二度チャイムを鳴らされると、無視しないわけにはいかないので、応じることにした。

「はい…」

私がチャイムに応じると、女性は驚いた表情を浮かべた。

「こちらは須藤 悠翔さんのお宅でお間違いないでしょうか?」

どうやら悠翔さんに用があるみたいだ。だから私が出たことに驚いたのかと納得した。

「生憎、悠翔さんは出先なのでご不在です」

「そうですか。また来ます。失礼致しました」

女性はその場を去っていった。一体、悠翔さんにどんな用事があったのだろうか。
最初は悠翔さんって知り合いが多いんだな...ぐらいに思っていたが、冷静になって考えてみたら一つの答えに辿り着いた。もしかして昨日の電話の相手が先程の女性だったのではないかと。
そのことに気づいた瞬間、胸の奥に大きな穴が開いた。あの女性はもしかして悠翔さんの…。
あまり深く考えないようにした。考え出したら嫌な方向へ考えてしまいそうだから。
ずっと胸騒ぎがしている。どうか嫌な予感が当たりませんように。
何度心の中で願っても胸騒ぎが消えることはなく。この気持ちを落ち着かせるために夕飯作りに取り掛かった。
料理をしていると段々気持ちが落ち着いてきて。一旦、先程の出来事を忘れることができた。

あとは悠翔さんの帰りを待つのみ。悠翔さん、早く帰って来ないかな。
だけど待っても悠翔さんが帰ってくることはなかった。いつも帰ってくる時間になっても帰ってこないのはさすがにおかしい。
悠翔さんの身に何かあったのかもしれない。何もないことを願いたいが、悠翔さんが心配なので、悠翔さんに電話をかけてみた。
しかし、悠翔さんが電話に応じることはなく。何度かけても出なかった。
明らかにおかしい。悠翔さんが心配なので、様子を見に行くことにした。
スマホを手に持ち、外に飛び出した。するとそこには自分が想像しえなかった光景が繰り広げられていた。

「悠翔、私はまだ悠翔が好き…」

先程の女性と悠翔さんが一緒に居た。その光景だけでもショックが大きいのに、その女性は悠翔さんに告白し、抱きついた。
まだ好き…ってことは悠翔さんの元彼女な可能性が高い。
薄々、気づいていた。昨夜の電話といい、先程の訪問といい…。
この女性はずっと外で悠翔さんが帰ってくるのを待っていたのであろう。
それほど悠翔さんを愛していて。悠翔さんももしかしたらこの女性のことをまだ…。
どんな理由があってこの女性と別れたのか知らないけれど、一つだけ分かったことがある。
悠翔さんはこの女性のことが好きだから、偽装結婚を選んだのだと。
そのことに気づいた瞬間、私は走って逃げた。悠翔さんが、「奈緒、待って…っ!」と声をかけてくれていたのにも関わらず、その声に振り返ることはないまま...。
これからどうしたらいいんだろう。離婚することになるのかな。
行く当てもないまま走り出した私は、自分の人生の行く当てもないのであった。
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