雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

5.5章:「悠翔の気持ち〜悠翔side〜」

順風満帆とは自分のことを言うのだとずっとそう思って生きてきた。
勉強も仕事も恋愛も人間関係も全部上手くいっていると本当にそう思っていた頃のことだった。
当時勤めていた会社の直属の上司が俺の悪口を言っているところを偶然、目撃してしまった。
最初は気にも留めていなかった。自分のことを嫌いな人の一人や二人ぐらいいるだろうと思っていた。
しかしそう思っていられたのは最初のうちだけで。どんどん自分の中で蓄積されていった。
見えないストレスは俺の心身の健康を害し、ついに会社へ行けなくなってしまった。
異変を感じた俺は病院へ行くと、精神的な問題だと診断された。
最初は理解できなかった。自分がこんなことで心身の健康を害することになるなんて思ってもみなかったから。
でも次第に自分の異変を受け入れ、薬を飲み、治療しながら会社へ行けるようになった。

だがそれも長くは続かなかった。上司の俺への嫌がらせはエスカレートしていき、業務に支障をきたすようにまでなった。
さすがにこのままでは取引先に迷惑をかけると思い、俺は会社を退職した。
悔しかった。あんな上司のために自分が退職するなんて…。
仕事を失ったのと同時に俺は心を失い、しばらくの間引きこもりになった。
そんな自分が惨めで、自分のことを嫌いになった。
あんなに自信満々だったのに、人生何があるか分からないもので。こんなにも落ちぶれてしまうとは思わなかった。

そんな自分を献身的に支えてくれる彼女がいた。小百合は本当に良い彼女で。どんな俺でも受け入れてくれた。
働けない俺を見捨てずにずっと側に居てくれた。小百合が居てくれたから、一度会社に復帰することができた。
なのに俺は仕事を辞めて引きこもりになって、小百合に迷惑をかけている。
申し訳ない気持ちになった。小百合は俺と別れて他の人とお付き合いした方が幸せになれると思った。

こんなことになる前、小百合と結婚したいと思い、プロポーズをした。
絶対に幸せにすると誓ったし、そうなると思っていたのに。まさかこんな形で別れることになるなんて。
小百合に別れを告げたが、納得してくれなかった。小百合がいいならこのまま側に居てもいいのかもしれないなんて甘えがあった。
でも小百合のご両親が納得するわけがなく。半ば無理矢理、別れることになった。

小百合のことを思えばこれでよかったのかもしれない。自分にそう言い聞かせた。
次第に現実を受け入れられるようになり、前を向けるようになった。
さすがにそろそろ転職活動でもするかなんて思い始めた頃、凌大も転職しようかどうか悩んでいた。
二人で一緒に転職活動を頑張っていたが、俺の方はなかなか上手くいかずに立ち止まっていた。
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