雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

今日帰ったら過去の話をしよう。そのついでに昨日の電話のことも話そう。
いっそのことこのまま自分の本当の想いも告げたい。告げて想いが実らなくてもいい。もう奈緒に嘘をつきたくない。

しかしその願いは潰えた。
帰宅して早々、小百合が自宅のマンションのエントランスの前で待っていた。

「悠翔、久しぶり…」

別れてから初めて小百合に会った。
別れたばかりの頃は小百合と再会したらどんな気持ちになるんだろうと思っていたが、実際再会してみたら何も思わなかった。

「どうしてここに…」

正直なことを言うと迷惑だった。奈緒にこんなところを見られたら誤解されそうだから。

「悠翔と別れてから、ずっと悠翔のことが忘れられなくて。連絡しても応じてくれないから、直接会いに来たの」

小百合とはとっくに終わった。お互いに納得して別れたはず。
それなのに今更になって会いに来られても困る。小百合の気持ちに応じることはできない。

「申し訳ないが、俺は今、結婚しているんだ」

偽装とはいえども、ちゃんと婚姻届を提出したので、戸籍状夫婦である。
それに俺は奈緒が好きだ。奈緒が俺を好きじゃなかったとしても、奈緒との婚姻関係を解消するつもりは一切ない。

「どうして？私にプロポーズしてくれたじゃない…」

「小百合、悪いがそれはもう過去の話だ。俺達はとっくに別れただろう？小百合も俺のことを忘れて前へ進んでほしい」

一度は結婚の約束をした相手だ。嫌いになったことなど一度もないし、あの頃の俺にとっては小百合が大切な存在だった。
でも今は違う。俺にとっての大切な存在は奈緒だ。奈緒以外の女性には興味がない。

「悪いがもう帰ってくれ。奥さんが家で待ってるから」

小百合を置いて、奈緒の元へと向かった。
しかし小百合はここで諦めず、俺を追いかけてきた。

「悠翔、待って…」

腕を掴まれた。あともう少しで自宅に着くというところで。

「離してくれ、迷惑だ」

「嫌だ。絶対に離さない…！」

そのまま抱きつかれた。離そうとしたが、力が強くて離せない。
これ以上の力で突き放せば、小百合を怪我させてしまうかもしれない。
それだけは避けたい。余計なトラブルは御免だ。