雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
もしあの日、小百合さんと鉢合わせていなければ、私達はまだ偽装結婚を続けていたかもしれない。
ある意味、小百合さんは私達の関係を大きく変えてくれた存在なので、そういう意味では小百合さんに感謝しなければならないのかもしれない。

でも今は違う。私は悠翔と本物の夫婦になれた。だから正々堂々と小百合さんに諦めてほしいと言えることができた。
だけど、今もあのまま偽装結婚という関係を続けていたら、私は潔く二人のため…なんて自分に言い聞かせて、身を引いていたかもしれない。
運命とは残酷で。たった少しのすれ違いが大きな分かれ道を作る。
小百合さんも本当は分かっている。もう悠翔と別れた時点で、悠翔との運命が違えていたことを。
それでもずっと自分の気持ちと現実が乖離していることを認めたくなくて。悠翔の元まで会いに来た。
そしてようやく現実を受け止められるようになった。受け止めないと、もう前へ進むことができないから。
陰道を渡す相手に、私を選んだ。じゃないと、現実を受け止めることができなかったんだと思う。
ちゃんと陰道を渡せた。これで少しでも小百合さんの気持ちが、前へ進めることを私は願った。

「私のためにはっきりと言ってくださり、ありがとうございます。奥様にはっきりと言ってもらえたことで、気持ちの整理がつきました。もう悠翔のことは忘れます」

残酷かもしれないが、断ち切れない想いを断ち切るために、時には相手のためを思ってはっきりと伝えなければならない。
小百合さんは悠翔ではなく、私をその役目に選んだ。
私を選んだ理由は明白だった。私に言ってもらう方がより現実を突きつけられ、認めざる得ないからだ。
今思えばお互いにお互いの存在を認めたくなかったんだと思う。悠翔を思うが故に…。
でも小百合さんは私の存在を認め、受け入れることにした。悠翔への想いを断ち切るために。

「誰かに言ってもらえることで、ようやく前へ進む決心を持てると思うんです。大きなお世話かもしれませんが、その役目を私が背負わせてもらいました。
でも自分でもよく分からないんです。あんなに憎き相手だったはずなのに、どうして小百合さんのことを放っておけないと思ってしまったのか…」

自分でも不思議な気持ちだ。放っておけばいい相手に、こんなに手を焼いてしまうのか。
同じ人を好きになったからなのか、はたまた過去の二人に同情しているのか。
自分の気持ちがよく分からないまま、目の前の相手と向き合っている。放っておきたくても、放っておけない自分がいる。
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