雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
今の私に求められているのは、悠翔さんの妻を演じることだ。
できるだけ悠翔さんと一緒に過ごし、お互いを知り、少しでも夫婦に見せることができるようにするのが大事だ。
目的を見失ってはならない。そのために一緒に暮らすのだから。

「…俺が焦ってるだけなのもあるけどな。奈緒と早く一緒に暮らしたいから」

この結婚が偽装結婚でなければ、勘違いしてしまいそうになる言葉だ。
勘違いしなくて良かった。これは偽装結婚のために言っている言葉だから。

「そうですね。お互いを知るためにも早く…」

本物の夫婦ではなくとも、お互いを知ることは大事だ。
少しでも本物の夫婦に近づくために、できることはやっておきたい。

「それもそうなんだけど、奈緒と一緒に居るのが楽しいって思ってるんだよ、…って何言ってるんだ、俺。すまん。今のは忘れてくれ」

忘れることなんて無理だ。不覚にも心の奥底に刻み込まれてしまった。
きっとこれから先も悠翔さんが照れながら言ったことを、私は一生忘れないと思う。

「はい。忘れておきますね」

彼の前では彼のために忘れたふりをしておくことにした。私の心の中だけに留めておく。彼の本音が嬉しかったから。

「知り合って間もない男との生活なんて大変だと思うけど、これからよろしくな、奈緒」

悠翔さんの言う通り、まだ何も知らない男の人といきなり一緒に暮らすなんて無謀なことかもしれない。
それでも私は悠翔さんと一緒に暮らしたい。真っ暗だった闇から抜け出して、色鮮やかな生活に戻りたい。

「こちらこそよろしくお願い致します…」

こうして出会ったばかりの男と偽装結婚が始まった。
この先、どうなっていくのか不安も大きいが、この男となら上手くやっていけそうな気がした。
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