雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
母が淹れたてのコーヒーとお皿に乗せたシュークリームをお盆の上に乗せて、二人が待っているリビングのテーブルまで運んだ。

「悠翔さん、どうぞ」

まずはお客様からもてなす。

「ありがとうございます。いただきます…」

コーヒーに一口口つけた。頂いたものに口をつけないのは失礼だと思ったのであろう。

「はい、お父さん。悠翔さんからシュークリームを頂いたわよ」

母がそう言うと、父の目の色は一気に好奇な目へと変わった。

「そうか。悠翔くん、差し入れをありがとう」

「いえいえ。こちらこそ。どうぞ召し上がってください」

「それではお言葉に甘えて、頂きます…」

父は出されて早々にシュークリームに口をつけた。大好物を目の前に出されて我慢できなかったのであろう。

「…ん、これは美味しい」

「喜んでもらえてよかったです。奈緒さんにお義父様とお義母様がシュークリームがお好きとお聞きしたのでご用意させて頂きました」

悠翔さんが自ら意図をバラした。悠翔さんの口から聞く前に知っていた母は優しく微笑みながら見守っていた。

「よかったわね、お父さん。シュークリームを頂けて」

母がそう言うと父は恥ずかしそうに、「あぁ…」と一言言った。
余程、このシュークリームが美味しかったみたいで。気に入ってくれたみたいだ。

「コホン。それで悠翔くん、今日は我が家へどんな要件があって来てくれたのですか?」

一気に父の目が真剣な目に変わった。もう何も言わなくても分かっている。娘が男を連れて帰省する意味を…。

「本日はお時間を作って頂きまして、誠にありがとうございます。今日はお義父様とお義母様に大事なお話があってお伺い致しました」

一旦、間を置き、深呼吸をしてから大事な言葉を悠翔さんは両親に伝えた。

「本日は僕と奈緒さんの結婚のお許しを頂きたく、挨拶に参りました。お義父様、奈緒さんを僕にください。お願いします」

悠翔さんは真摯にお父さんに向き合い、頭を下げて挨拶をした。
お父さんは悠翔さんのそんな姿に胸を打たれたみたいで。父親として覚悟を決めた顔をしていた。

「悠翔くん、頭を上げて。娘のことをよろしくお願いします」

お父さんは私達の結婚を認めてくれた。まさかこの結婚が偽装結婚だとは知らずに…。
信じられないであろう。こんなにも誠実な姿を見せた男が偽物の旦那なんて。

「お許しを頂き、ありがとうございます。絶対に大事にします。こちらこそよろしくお願い致します…」

この言葉に嘘偽りなんてなければよかったのに…と、心の中でそんなことを思った。
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