雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「そんなに特別なことはしてないだろう。怪我させた相手をすぐに帰らせるわけにはいかないし、俺もこれから夕飯を食べるところだっただから、ついでにあんたの飯も作ろうかなって思っただけだ」

当たり前のように振る舞える優しさが、私には眩しいと思った。
心に余裕がある人は違う。心に余裕がない自分が余計に惨めに感じた。

「あんまり気にするな。俺がやりたくてやってることだから、あんたはそれに黙って甘えてればいい」

そうは言われても見ず知らずの人に黙って甘えられるほど、私は器用な人間ではない。
何もお礼はせずに何かしてもらうということが苦手だ。せめて何かお礼だけはさせてほしい。

「あなたはそれでいいかもしれないですが、私は黙って何もしないというのは苦手です。なのでせめて何かお礼だけはさせてください」

お金はないので、高価なものを求められたら何もできないが…。
それ以外のことで自分にできることがあるのならば何かしたい。

「俺は何も気にしてないけど、あんたが気になるのならお礼に何かしてもらうわ」

男はすんなりと私の気持ちを受け入れてくれた。やっぱり優しい人だなと思った。

「お金がかかることは難しいですが、それ以外のことなら何でも…」

「簡単に何でもって言うな。もし俺が見境なく襲う男だったらどうするつもりなんだ?」

そんな男には思えないが、確かにこの男の言う通りだ。軽々しく口にするものではない。

「確かにそうですね。もう言いません。でもあなたがそんな人には思えないから言いました」

またこの男に怒られるかもしれない。先程注意したのも関わらずと…。
それでも私はこの男に対して警戒心は抱いていない。信用はしていないが、変なことはしないという自信だけはある。
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