雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「そんなの当たり前じゃない。もう悠翔さんも大事な家族の一員よ。こちらこそよろしくお願い致しますね」

「そう言ってもらい、こちらこそ大変光栄です。これからも末永くよろしくお願い致します」

両親へ嘘をついているのは心が痛かったが、何の問題もなく和やかな雰囲気のまま挨拶を終えることができて、私は心の中で安堵した。
あとは両親にこの結婚が偽装結婚であることがバレないことを願った。


           *


挨拶を終えて少し談笑した後、お暇することになった。

「本日はお時間を作って頂き、誠にありがとうございました」

「いえいえ。また遊びに来てくださいね」

悠翔さんのご両親もそうだが、うちの両親も娘に人生のパートナーが見つかったことを、心から祝福してくれた。
自分の子供が選んだパートナーだからこそ、自分達も大事にしたいと思う気持ちが充分に伝わった。
本来なら嬉しいはず。両親にパートナーのことを認めてもらえたのだから。
でも喜んでくれている両親の気持ちを踏み躙ってしまっていることに胸が痛んだ。

「是非、また遊びに来させてもらいますね。お邪魔致しました」

また遊びに来る機会があるのか分からないが、口約束だけでもいいからこの場では良い夫婦のふりをしておきたかった。

「お父さん、お母さん、それじゃまた…」

「またね。元気でね」

いくら素敵なパートナーができたとしても、親としては娘のことがいつまでも心配なわけで。
そんな両親に少しでも心配かけないように、身体だけは健康でいようと心の中で誓った。

「うん。またね。お互いに元気でいようね」

そう言い残して、私達はその場を去った。そのまま駐車場へと向かった。

「奈緒のご両親、素敵なご両親だったね」

悠翔さんにそう言ってもらえて、私はとても嬉しかった。

「ありがとうございます。悠翔さんにそう言ってもらえて光栄です」

両親の代わりにお礼を伝えた。自分のことのように嬉しかったから。

「こちらこそありがとうな。とりあえず両家に認めてもらえたから、これで一安心だな」

許してもらえない…ということの方が珍しいのかもしれないが、それでも認めてもらえて安心した。

「ですね。これで一安心です」

すると悠翔さんは私の手を掴み、手を繋いだ。
性的接触は禁止だが、夫婦のふりをする上で手を繋ぐぐらいの接触ができないと、夫婦は愚か恋人ですら見えない。
でもいざ悠翔さんに触れられると意識してしまう。悠翔さんの手の温もりや手の大きさなどを…。

「次は婚姻届を提出しないとな。証人は俺の方で頼んでいる人がいるから任せて」

一体、どんな人に証人を頼んでいるのか気になったが、悠翔さんが頼んだ相手なら安心だ。

「分かりました。お任せします」

何はともあれ無事に偽装結婚を締結させることができたので、暫くの間生活に困る心配がないことに私は安堵した。
そして後日、ちゃんと役場に婚姻届を提出し、正式に悠翔さんと夫婦になった。
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